雛鼠作
□雷を君にあげる
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どーん
ある日のこと、ナルトが家で珍しく忍具の手入れをしていると、今流行りのゲリラ豪雨なる天気になり、雨もすごいが雷があちらこちらでどっかんどっかん落ち始めた。
あまりの雨と雷に、当初は何かしらの忍術などによる攻撃かとも思われたが、環境問題によるものだと判ると、里の中にある川の増水や落雷による停電等の対処に追われる忍の他は、慣れてしまって緊張もなく日々を過ごしている。
とはいえ、落雷による停電被害はかなり出ている。
ナルトも、停電で冷蔵庫が止まっている間に中の物が腐るという被害を受けていた。
今日はどこで停電が起こるのだろうと、クナイを磨きながらぼんやり稲妻を眺めていた。
しばらく見惚れていると、光とともに頭の上で大きな音がした。
あまりの衝撃に思わず目を閉じる。
全身の産毛が雷の静電気で浮いている感覚がして、思わずブルルと身震いをする。
「今の、完全に屋根に落ちたよな?」
思わずそう口に乗せつつ、屋根が心配になって危ないと解っていながら外に出る。
傘を差しそっと屋根をのぞくが、特に被害は無いように見える。
とりあえずほっとして部屋に戻ろうとすると、目の端に入ったものに違和感を覚える。
振り返ってみると、少年が一人蹲っていた。
「はあああああ?!」
慌てて駆け寄って抱き上げると、息をしているのが確認できてひとまず安心する。
「おい・・・・おい!」
頬を軽く叩くが、一向に目を開ける様子は無い。
どうやら気を失っているようだ。
とりあえず雷がまた落ちてこないとも限らないので、慌てて部屋に戻る。
少年を助けに行く時に傘は置いて着てしまったので、ナルトももちろん気を失っている少年もびしょ濡れだ。
とりあえず少年をバスタオルで包み、自分は服を脱ぎながら火影塔に電話する。
「はい、春野です。」
「あ!サクラちゃん?!」
火影塔に勤務している忍にサクラに繋いでもらう。
「今、屋根に雷が落ちて、子供が倒れてたんだけど!いくら呼んでも目を開けないんだってばよ!」
「えーーーーっと、子供が倒れてたのね?息はしてるのよね?心音も安定してる?」
パニックを起こしているナルトの説明は要領を得なかったが、落雷にあったらしい少年の意識が戻らない事を、何とか付き合いの長さからサクラは読み取った。
「うん、どっか焦げてたり、とかって事もなさそうだってばよ」
サクラに言われた事を確認しながら、少年のびしょ濡れの服を脱がす。
目に見える範囲での外傷が無い事にほっとしながらサクラに報告する。
「そう。じゃあ、ちょっとこれから行くから」
「風呂に入れても平気かな?」
全身びしょ濡れで少し冷たい少年が心配で、ナルトは今にも電話を切りそうなサクラを呼び止める。
「意識が戻るまでやめた方が良いわ。よく拭いて、何か洋服を着せて、布団でくるんでおきなさい」
直ぐに行くから。
と、優しい声で言われては自分の取り乱しっぷりに少し顔が熱くなる。
とにかく、サクラが来る前に言われた事をしてしまおうと、少年を拭いて、布団で包んで、自分の洋服を漁る。
少年に合いそうな服が無いので、適当なシャツを見繕って戻る。
服を着せ終わってもピクリともしない少年に、不安になる。
胸に耳を寄せて、命の音に安堵する。
改めて少年を見ると、年は10歳位か・・・。
黒い髪、残念ながら目は閉じていて見れないが、整った顔立ちだと思う。
「お前、屋根の上で何やってたんだよ」
間違えなくアカデミー生くらいの年の少年が、こんな天気の中何をやっていたのだろう?
疑問には思うが、少年が目覚めない事にははっきりしない。
ピンポーン
「ナルトー?」
「あ!サクラちゃん!」
チャイムとともに待ち人の声が聞こえて、玄関まで飛んでいく。
「こんな雨の中悪かったってばよ」
「人が倒れてたんだから仕方ないじゃない。その子?」
サクラは、ベッドに寝ている子供が電話でナルトが言っていた倒れていた子だと直ぐにわかり、診察を始める。
「とりあえず、落雷をもろに受けた跡は無いわ」
ナルトが着せたシャツをめくって、外傷が無いか確認する。
「心音、呼吸音、ともに問題なし。外傷も無いわね」
ある程度子供をひっくり返したりしながら診察して、サクラは子供の服を整えてベッドに仰向けに寝かしなおす。
「どうだってば?」
サクラが診ている間、部屋の隅に正座をして見ていたナルトが、正座のままにじり寄ってくる。
「うん、問題なし。たぶん近くに落雷があって、びっくりして気絶してるだけじゃないかしら」
「なーんだ。お騒がせなガキだってばよ」
「ただ、一つ気になるんだけど・・・」
サクラは深刻な声を出すと子供の顔を覗き込む。
「こんな子、アカデミーにいたかしら?」
「え?」
今度はナルトがサクラの顔を覗き込む。
「もちろん私だって教師じゃないから、全員の顔や名前を覚えてるわけじゃないのよ」
そう前置きすると、ナルトの顔をどかして子供の濡れている前髪を整える。
「でも、こんな顔が整ってる子を忘れるはずないんだけどな」
サクラは思い出そうとしているのか、黙り込む。
その言葉にナルトは最悪のことが頭に浮かんで慌てだす。
「も、もしかして他里の忍?!」
「考えられなくはないけど、それにしちゃ忍具も何も持ってないし」
「仲間が持ち帰ったとか?」
「それにしてもねえ、クナイのタコもないし、怪我一つないわ」
「変化って事は?」
「変化の形跡も幻術も使ってないわ」
「でも、一般人の子供が屋根の上にいるっておかしいよ・・・ね?」
「まあ・・・。あ、目を覚ましそうよ」
テンポ良く会話を続けていた二人だが、当事者の目が覚める気配がしたので黙って子供の顔を見守る。
すると、いくらかもかからないうちに子供の目が半分開いた。
「目が覚めたわ!」
「おい、お前大丈夫か?!」
二人で声を上げると、子供は一瞬眉間にしわを寄せるが、今度ははっきり目を開けて二人を見る。
「「・・・・・!」」
その眼差しの強さと想像以上に整った顔に、二人は思わず見惚れてしまい固まる。
「わぁ!」
動いたのは子供が先だった。
急に起き上がると、ナルトの腰に腕をまわして抱きついたのだ。
「だ、だめよ、今まで気絶してたんだから、そんな急に動いちゃ・・・」
そう言ってサクラが子供を寝かそうとするが、子供は首を振ってナルトから離れようとしない。
事情は飲み込めないが、ナルトから離れようとしないので、仕方なくサクラはそのまま質問を始める。
「あなたアカデミーの子?何年何組?お名前は?」
優しく声をかけるが、子供はまったく反応すらしない。
「サクラちゃんが聞いてんだから答えろよな」
ナルトが少し恐い声を出すと、子供が顔を上げた。
「お前、アカデミーの生徒か?」
目が合ったことでナルトは、もう一度サクラの聞いた質問をした。
すると子供は少し頭を傾ける。そしてしばらくの後、首を横に振った。
「じゃあ、忍なのか?」
またしても横に首を振る。
「この里の子か?」
これも否定の反応が返ってくる。
それを見て、とりあえずサクラの肩から力が抜けた。
他里の忍がわざわざ他里だと主張して得な事は一つもない。
「じゃあ、名前は?」
とりあえず敵ではないと判断できたので、そろそろ子供を家に帰さなければいけないと、情報を集めるためにナルトが質問する。
が、コレにも子供は首を振る。
「え?!」
「親は?家は?年は?」
びっくりして固まったナルトの代わりにサクラが質問をする。
しかし、全ての質問に首を振って答える子供にサクラも言葉を無くす。
「ど、どうするってばよ!?」
「ま、まって。お、落ち着きましょう」
「でで、でも・・・・捨て子?いってーーーー!!」
「馬鹿!本人の目の前でなんて事を!」
ナルトの不用意な発言に、サクラはとりあえずこぶしを頭に落として黙らせる。
「その可能性は否定できないけど、この年で名前も無いってありえないわ。それにしては結構いい身なりもしてるし、健康そのものだし・・・・。」
頭を抑えて涙目になっているナルトの横で、サクラは考えに耽る。
しばらくすると、何かを思いついたらしくポンと一つ手を叩く。
「記憶喪失!」
「違うみたいだってばよ」
サクラの結論は直ぐに本人が首を横に振る。
「じゃーーーなんだってのよ!」
とうとうサクラは地団駄を踏み出す。
「サクラちゃん?落ちけってばよ?」
「落ち着いていられますか!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。まあ、いいわ。何の問題もないみたいだし、このまま預かってて頂戴」
「ま、まって。オレはコイツとどうしたら?」
どうやら放置されそうだと感じたナルトは慌ててサクラの服をつかむ。
「普通に生活してなさい。そのうち親も出てくるでしょ」
「そんな、サクラちゃん!」
まだ泣き言を言うナルトを尻目に、サクラはさっさと火影の館に帰ろうとする。
しかし、何かを思い出してナルトに向き合う。
「ナルト、来週の10日なんか入ってる?」
「え?ううん、別に」
「あっそ」
突然、自分の誕生日のスケジュールを聞いてきたサクラに、まさかお誘いか?!なんて期待も込めて返事をするが、何の興味も無いような一言で終わらせて、今度こそ家を出て行ってしまう。
「まって、サクラちゃん!その日は俺の誕生日だよ?ってゆーか、何で聞ーたの?!」
今の一瞬のどたばたで、突っ込みたいことがいっぱいあったのに、突っ込む相手はいなくなってしまった。
そして気が付けば、子供と共に置いていかれた状態だった。
「どうしろってゆうんだってば?」
しばらく呆然としていたナルトだが、いつまでも離れない腰の重みに目線を下げると子供が引っ付いている。
「お前いい加減離れろよ」
また無言で首を振り、そのままナルトを見上げてくる。
「あーもー、仕方ねーってばよ。オレも一緒に寝るから、お前も寝ろ!」
とりあえず、寝かしつけてからはがそうと考えたナルトは、子供を寝かしていたベッドへ自分も入る。
「ほら、コレなら文句無いだろ」
とりあえずベッドに入ったはいいが、どうしていいかわからなくなってしまう。
小さい頃から一人だったナルトは、寝かしつけた事はもちろん寝かしつけてもらったことも無い。
とりあえず、ドラマか何かで見た通り、背中をぽんぽんとたたいてやる。
すると子供は気持ちよさそうに目を閉じる。
他人の体温をこんなに近くで感じることが始めてのナルトは、その心地よさに負けて子供と一緒に眠ってしまった。