雛鼠作

□気まぐれ猫君
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「サスケ君、ちょっと良いかしら」

大きい修行用の部屋でサスケが修行の合間の休憩を取っていると、大蛇丸が部屋へ入って来て、近づいてくる。

「そろそろ次の場所へ移るわ、準備して頂戴」

返事もしないサスケを気にもせず、移動の旨を伝えると部屋を出て行こうときびすを返す。

「そうだわ」

手をドアノブにかける所まで行き、大蛇丸は止まる。

「次の場所へ行く途中の辺鄙な村に自来也が滞在してるみたいなの。あの九尾の子と一緒にね」

思い出したと、独り言のように言ったオロチ丸の言葉に初めてサスケがピクリと動く。
それを見た大蛇丸は笑みを浮かべる。

「修行をしているみたいだから、しばらくはそこにいるでしょうねえ。移動途中にちょっと足を伸ばせば会えるかもしれないわねえ」

大蛇丸はそこまで言うと、部屋を出て行った。
















のどかな村だ。
そう遠くないところに町はあるが、ほぼ自給自足で生活している村の空き家を借りてナルトは修行している。
この村のそばには断崖が数多くあり、今している修行には欠かせない地形だった。
夏前にはこの村に入り、田畑の手伝いをしながら修行している間に季節は秋に
なった。
村の人ともすっかり仲良くなり居心地は良いが、時間の経過に焦りを感じる。
その焦りに耐える事も修行だし、この村では全ての事を自分でしなければならない。
料理や洗濯と言ったような一般的な生活力を見に付けると言う修行もかねてここを修行場に選んだ自来也であったが、そんな事はナルトは知る由も無い。

今日は自来也が町に用があると出かけてしまっているので修行は休みで、村の住人の手伝いをして時間は過ぎていった。


「ほれ、お前に土産だの」

夜、自来也が帰ってくるなり、机の上に色々と並べ始めた。
ナルトは土産など一度も買って来た事の無い自来也の行動にびっくりしたが、机の上に並べられる物にさらに驚いた。
ラーメン、鳥のから揚げ、団子、汁粉・・・・。
極め付けにケーキまである。
この村に入ってからは郷に入っては郷に従えと言う自来也の教えで、村で取れた物を手伝いの報酬として手に入れ、それを料理して食べてきた。
岩場ばかりで大きな川が無く、魚はもちろん大型の獣もいないので、なかなか肉が手に入らなかった。
こんな肉料理は1週間ぶりかもしれない。
ラーメンはこの村に来てから初めてだ。

「すっげーご馳走じゃん!どうしたんだってばよ?」

突然のご馳走にナルトははしゃぐ。
自来也はそれを一瞬優しい眼差しで見ると、ナルトの髪を乱暴にかき回す。

「うわあ!急に何すんだよ?」
「誕生日だのお」
「へ?」
「今日は10月10日だ。気が付いてなかったのかのぉ?」

言われて初めて、ナルトは今日が自分の誕生日だということに気が付いた。

「え?じゃあこの為に今日、町に行ったってば?」
「綱手に報告する手紙を出すついでに買ってきたんだのお」
「へへへ」

それでも嬉しいってばよ、と笑うナルトの頭に紙の束が置かれる。

「お前宛に来た手紙だ。サクラからの様だの」

サクラからの手紙と聞いてぱらぱらと束をめくる。
かなりの厚さになっているそれをめくると、里にいる仲間達からの手紙も一緒になっていると解る。
さっそく読み始めようとするナルトを自来也は制止する。

「先に飯にするぞ、麺がのびてしまうからの」
「ああ!忘れてたってばよ」

いつものように、ナルトが今日あった事を話しながらの食事が始まる。

「ふーーー、食った食った」

あっという間に腹が膨れてしまった。
机の上にはまだかなりの量が残っている。

「結構余ったってばよ」

余った物を小さくまとめると、冷蔵庫へきちんとしまう。

「明日はどうするってばよ?」

片づけを終えると自来也を振り返る。
しかし、自来也はまた出かける準備をしている。

「わしはこれからまた町へ行ってくるからのお。明日は昨日やった修行の第三段階までを何度もやって完璧にしておくんだのお」
「えー、また行くのかってばよ」
「綱手から小さな依頼がきたんだから仕方なかろう」

今日一日放って置かれたので明日こそは次の修行ができると思っていたのに、明日もまた一人と言われて不満を全身で訴える。
しかし、自来也はそのまま出かけていってしまった。

「ちぇー、早く修行の続きがしたいってばよ」

時間の経過が早すぎて苦しい。
とにかく今から修行はできないので、巻物を読もうと読み物用の机へ向かうと先ほどの手紙が目に入る。

「あ、忘れてた」

ナルトは巻物を置き、その紙の束を持ってベッドへ向かう。
部屋の電気は全部消してサイドランプをつけると、うつぶせに寝て手紙を読み始める。

「へへ、皆相変わらずだってばよ」

それぞれの身近に起こった出来事を色々と書いて、皆終わりに誕生日を祝ってくれる言葉を書いてくれている。
途中まで読んでいて、ふと何かを思い出すと荷物を漁る。
見つけたモノを胸の下に入れて手紙の続きを読む。
しかし、半分くらいまで読んだところで昼間の農作業が意外に疲れたのか、ナルトはそのまま寝てしまう。



「相変わらずだな」

眠ったナルトの元へ人影が近づく。
もちろん自来也ではない。
侵入者の目が、ナルトに思いっきり抱きしめられているモノに捉える。
近づいてよく見ると、らしくも無く口元が緩む。

「まだ、っつーか、こんなとこにまで持って来てんのかよ。ウスラトンカチが」

さらに近づいてナルトの腕の中のモノに手を伸ばして触れる。
そこまで近づくと、サイドランプの光にその黒髪と黒い目、端正な顔が照らし出される。

「本当にウスラトンカチ」

ナルトが里を出る時に持ってきたモノとは、スリーマンセル時代の誕生日にサスケがプレゼントしたカエルのぬいぐるみだった。
店の前を通るたびにナルトが気にしていたのを気が付いてしまい、誕生日にプレゼントしたらびっくりした後、満面の笑みで喜んでいたのを思い出す。

「こんなもの邪魔だろうに、なんで持ってきてんだよ」
「んっ」

不意にナルトが寝返りをうつ。
起きたのかとサスケは身を硬くする。
しかし、抱きしめたぬいぐるみを中心に小さく丸まると、そのまま寝息をたて始める。

「子供かよ」

動いた拍子に前髪で顔が隠れてしまい、それが不満で指で前髪を上げる。

「!!」

前髪で隠れたナルトの顔は泣き顔だった。

「・・・サスケ・・・」

極め付けに小さく名前を呼ばれる。
なんとも言えない感情に襲われて、サスケは動揺する。

「寝ていても、気配を感じ取っているんだのぉ」

突然後ろからかかった声に、慌てて武器に手を掛ける。

「遅いの。お前ともあろう者が油断してたのかのぉ」

それともナルトの寝顔に見惚れてたのか?と、町へ行ったはずの自来也がからかい混じりに言葉を続ける。

「あんたは・・」
「既に町に向かったと思っていたか?お前の気配に気が付かないほど老いぼれてないんでのぉ」
「くっ」

サスケは自来也が町に行ったのだと思い込んでいた自分が情けないのか、苦々しい顔をする。
そのまま、今までその片鱗も見せなった殺気を自来也に向ける。

「そう殺気をばら撒くんじゃないのぉ。ナルトが目を覚ますぞ」

コイツが起きると面倒臭いのはお前ではないのか?と暢気に聞いてくるが、手を出そうともして来ない自来也に疑問を覚える。

「俺を殺すなり、捉えるなりしないのか?」

任務ではないにしろ、里の抜け忍がいたらそうするのが当然なのだが、自来也からはそのような気配がしない。

「儂がお前を殺す事は無いのぉ。そんな事をしたらナルトに殺されてしまうのぉ」

またしても暢気な言葉だけで、からかっているのかとサスケの目が鋭くなる。

「捕まえるにしても今はしないのお。お前は餌だからのお」
「誰のだ?」
「もちろんナルトのだのぉ。それとサクラもかのぉ」

餌と言われたのが気に入らない様子のサスケに、自来也は内心笑う。

「お前を餌にでもしなければこんなに必死にはならないからのお。お前の餌っぷりはすごいぞ、いやな事でもお前の名前を出すと必死にやるんだからのお」

自来也の言葉は本当だろう、それを聴かされてもサスケにはどうしようもないが。
ナルトの寝顔に目線を移す。
少し、サクラとナルトの気持ちが重いと思う。

「ところで、こんな所でいつまでも油を売っていていいのかのお?」

ナルトの顔を見たまま固まってしまったサスケに、暗にそろそろ去れと促す。
その言葉にサスケははっとする。
集合場所へのタイムリミットまであまり余裕はない。
自来也が部屋の出入り口にいるので、窓から出ようとする。

「おいおい、折角持って来た物くらいは置いていってやれのお。こいつへのプレゼントなのだろう?」

そこまで気が付かれていた事に腹立たしさを感じながらも、懐の中から小さな小包を出す。
それをそっとナルトの枕元に置くと、窓から外へ飛び出て気配を晦ます。

「まったく、寝ている間に枕元プレゼントなんて、二ヶ月も早いんじゃないかのお」

サスケを見送った後、起きる気配も無い自分の弟子にあきれつつも、窓を閉めて布団をかけてやる。
そのまま、今度こそ町へ向かって歩き始めた。


翌日、目を覚ましたナルトは枕元に小包を見つけた。

「あれ?昨日は無かったよな?・・・!!」

不思議に思い手にとると、知ったチャクラを感じる。

「何でアイツの・・・サスケのチャクラが?」

慌てて小包をめくると、小さな陶器でできたカエルの置物が出てくる。

「もしかして・・・・誕生日プレゼント?」

昨日の今日では辿り着く結論は一つしかなく、にナルトは慌てる。

「何で・・・」

ここに来たのかとか、何でくれるのかとか、様々な疑問にナルトはパニックを起こす。
しばらくベッドの上でぐるぐると考えていたが、とりあえずナルトは考えるのを放棄して朝食を取りに行く。
ぐるぐるした頭のまま昨日の残りを暖めて食べているうちに、少しずつ落ち着いてくる。

「まあ、アイツにも祝ってもらえて嬉しいって事でいいか」

色々言いたいこともあったが嬉しいこ事は確かなので、自分の中でそう結論付ける。

「サスケ、サンキュな」

このプレゼントのお礼を直接本人に言えるのは、まだだいぶ先の話。
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