雛鼠作
□続・初めてのお願い
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ナルトのおねだりから3日後、任務を終えたサスケは夕飯の献立を考えながら歩いていた。
ナルトはもうとっくに帰ってきているはずだから、早く家に帰りたくて自然早足になる。
「サスケくーん」
アカデミーを出る手前で、後ろから声をかけられた。
振り返るとサクラだった。
顔が見えない程、書類を抱えてる。
「なんというか・・・、すごい量だな。」
大量の書類を軽々抱えているサクラに、さすがのサスケも軽く引く。
「ちょっと持ってよ」
その必要は無いように見えるが、彼女には逆らわない方がいい事を知っているので、おとなしく半分を受け取る。
「火影の部屋までよろしくね」
書類も持ってしまったので、早く家に帰るのは諦め渋々着いていく。
従順なサスケを見て楽しんでいる、周囲の視線をぶら下げながら。
火影の部屋に行くと、大量の書類に綱手が駄々をこねて受け取らないので、タイミングよく帰ってきたシズネに押し付けて出てきた。
今二人がいるのは、火影の館にある待機室だ。
サスケはすぐにでも家に帰りたいが、コーヒーをおごるというサクラにまたもや逆らえずここにいる。
「一昨日かしら?」
缶コーヒーを二人で黙って飲んでいると、サクラがぼそりとつぶやいた。
窓から外を眺めていたサスケにそのつぶやきは届いたが、独り言かと思い無視をする。
が、視線を感じて振り向くと、サクラが窺うような目で見ている。
(一昨日?何かあったか?)
サクラの目から、さっきの言葉が独り言ではなく自分に向けたものだと気が付いたサスケは一昨日を思い出そうとする。
しかし、休みだったこと以外は特に思い出せなかった。
「思い出せないの?」
一般人では見分けられないサスケの無表情を、幼馴染の慣れからサクラは正確に読み取る。
「ああ」
即答するサスケに、サクラはニヤリとした笑いをむける。
嫌な悪寒がサスケの背中を駆け上った。
「ナルトはなんて言ったの?可愛かったでしょ〜」
サクラのからかいの混じった言葉に、サスケは微妙な表情になる。
「ナルトを焚きつけたのは私よ。聞いて無いの?」
ナルトが『サクラちゃん』を連呼していたのは覚えている。
しかし、それを言っていたのは3日前で、ナルトの性格から言ってサクラに言われた当日にあれをやったのだろう。
「ナルトから聞いたのは、おそらくサクラがあいつを焚きつけた当日。3日前だ。」
「そんなの解っているわよ。当日に気持ちを伝えることぐらい・・ね。」
ナルトの性格はサクラもよく解っている。
「愛の告白をしてもらった次の日、ナルトは任務だったからお預け食らったんでしょ?だから、本番は一昨日の夜。で、合ってるでしょ」
サスケは、サクラのあまりの発言に少し頬を赤らめる。
普段はナルト相手に卑猥な事を言っているサスケだが、幼馴染の・・・というより、他人に言われると複雑らしい。
それに、見事に言い当てられてしまっているので言葉も無い。
気まずさから目線を窓の外に戻す。
「それにしても、あっさり言うこと聞くから、可愛くて仕方が無いわ」
さすがに今の台詞はナルトの恋人として許せないと、横目でサクラを睨む。
「やーね、当然弟としてよ。昔から私に逆らわないように教えつけといてよかったわ。面白くて」
サスケをからかうのに、ナルトをはずすことはできない。
サクラはかつてのスリーマンセルの関係を大事にするとともに、楽しんでいる。
サスケをからかうなんて、自分にしかできないこともよく理解していた。
「まあ、可愛いナルトを堪能してくれたんなら良かったわ」
そういうと、サクラは扉に向かう。
「そうそう、今日は夕飯はナルトが準備するらしいわよ」
それを聞くと、扉ではなく窓から飛び出そうとする。
料理が下手なわけではないのだが、すぐにラーメンを主食にするのと、とんでもない創作料理を作り始めるナルトに、なるべく料理はさせないようにしている。
特に、夕食の場合は創作料理の可能性が高い。
「待ちなさい」
サスケの考えなどお見通しのサクラは、すぐにでも夕食の準備をしているナルトを阻止しに行こうとしているところを止める。
「大丈夫よ。今日は何を作ろうか、相談されたから」
サクラの言葉に、窓のサンにかけていた足を下ろす。
きちんとメニューが決まっていれば、意外とレシピ通り作るのだ。
「結構なご馳走になっちゃったから、帰りがけにビールでも買うのをお勧めするわ」
そういってサクラは部屋を出て行く。
サスケは普段からあまり飲まないのをサクラは知っている。
それでも進めたからにはなにか意味があるのだろうと判断し、サクラに続いて部屋を出て酒屋へ向かう。
家ではサスケにあわせて飲まないナルトが、ビールを好んでいるのも知っていた。
酒屋でつまみを買うか悩んだサスケだが、結局ビールを湯水のように飲むナルトのために、多めのビールを買って暗くなり始めた家路を急ぐ。
家に近づくと、中から賑やかな気配がしてくる。
ナルトは一人でも賑やかなので不思議はないが・・・。
(とはいっても、この気配は・・・)
ドアを開けたサスケは、予想通りの家の中にため息をつく。
「うわ、サスケ帰ってきちゃってばよ!」
「マジで!?もうかよ」
「急げ、急げ!」
「とりあえず風呂に入ってもらえよ」
「それがいいってば!」
大勢の影分身が分担して何かやっているようだが、サスケが帰ってきたのに気が付くと『おかえり』の挨拶もなしに風呂に押し込まれてしまった。
「もう湯は張ってあるってばよ。着替えも持ってくるからゆっくり入って来いよ」
そう言うと、影分身ナルトは出て行ってしまった。
本体はどこで何をやっていたのとか、あんな人数がなぜ必要なのかとか、いったい何時間こんなことをやっていたのかとか、疑問は絶えないが、今聴きに行ったところでどうせ風呂に連れ戻されるのは解っているし、リビングにサスケの居場所はないだろう。
とりあえず、ナルトが呼びに来るまでは風呂に入っていた方がよさそうだ。
のぼせてしまう前にナルトが来ることを願いつつ、サクラに続いて本日2敗目の状況に今一度ため息を付いた。
「サスケ、そろそろ出るってばよ?」
ナルトが呼びに来たのは、ちょうどそろそろ出ようとしていた時だった。
あれからまた気配が増えたから、影分身の量を増やして間に合わせたのだろう。
今はナルト本体と、影分身1体分の気配しかない。
「今出る」
ざっと髪を乾かし、用意された服を着てリビングに行くと、ちょうど残った影分身が消されたところだった。
食卓に目を移して、サスケは固まった。
その様子にナルトは気が付いて、テレながら口を開く
「へへ、ちょっとがんばったてばよ」
食卓の上には、『ちょっとがんばった』だけとは思えない食べ物の量で埋めつくされている。
「さ、席に着くってばよ。サスケの買って来てくれたビールも冷えてるってば。」
促されてサスケも席に着く。
「豪華だな、何かあったか?」
食卓の料理の量に圧倒されて、思っていたことを口にした瞬間、ナルトは驚いた顔をした。
「お前、今日が何の日か気づいてねーの?」
そう言われてカレンダーを見て、ようやく気が付いた。
「マジで気が付かなかったのかよ」
サスケの表情で気が付いたナルトが、あきれた声を出すが、ビールの入ったコップを持つとニコリと笑ってサスケを見る。
「お誕生日おめでとうってば。」
ビールの入ったコップで、乾杯と合図をしてくる。
今日が何の日か気が付いたサスケもコップを持ち上げる。
「ありがとう」