BLACK作

□3月14日の潜水士。
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食べながらのんびり帰ろうと、来た時とは違う道で川沿いに出る。
河川敷の斜面と広い道は、度々喧嘩に明け暮れた場所だ。
確信は無いけれど、全てを敵にまわしても光をかすかに感じてるんだ。
そこまで行けそうなら…。

ナルト「へっきし!」

ナルトがくしゃみをすると、斜面で黒い塊がビクッと動く。
ナルトもそれにビクッとしつつ恐る恐る覗き込むと、そこにはアイツが仰向けで寝そべっていた。

サスケ「見んな。」
ナルト「何してんだ?」

聞けばサスケも眠れないらしく、ボーッと空を見ていたらしい。

ナルト「俺も俺も。実はこんな夢を見てさ。」

と言いながらサスケの横に座る。
息をしたくて、ここは苦しくて、闇を見上げるだけの夜。

ナルト「で、もがいてるうちに目が覚めるんだ。」

空に手をグーパーさせるナルト。

サスケ「まるで減圧症だな。」

本当に大丈夫か?と言って伸びてきたサスケの手を、咄嗟に手を引いて避ける。

ナルト「あっ…いや、ははは…。」

バツが悪そうにサスケの眼を見る。
生きているんだって確かめたくて、深い海底を目指して、もう一度呼吸をしよう
…。



その夜サスケは不思議な夢を見た。
自分の身体が沈んで行く感覚と、空から降ってくるナルトが手を伸ばしている夢。
悪夢ともつかない幻想から覚醒して、ベッドから降りてカーテンを開ける。
頭の中の地図をひっくり返したら、足りないものだらけで独り怯えた昨夜。
自分は強いんだってずっと思ってた。
誰よりも強いってずっと思ってた。

サスケ「チッ…。」

夜空を見ると兄を思い出す。
博識な兄はよく色々な話をしてくれた。

サスケ「くっ…頭痛が…。」

目眩がしてチラチラと光が舞う。
まるで迷子になった白鳥が星の夜空に浮かんでいるかの様に…。
フラフラとベッドに座ると、慰めのように降り出した雨。
横になりながら窓の外を見る。
だけど自分にはなれそうもない。

サスケ「星が星なら俺は俺だ…。」

どこまで行けそうかな…。
重たい錨を背負い込んで、ほんの少し祈りを吐き出して、今までそうやって生きてきた。
まるで合図のように降り出した雨は、冷たい空気をより綺麗にして直ぐに止んだ。

サスケ「少し風に当たるか…。」

川の方は雨が降らなかったらしく、道も乾いていた。
斜面に寝転び空を見る。
息をしたくて、ここは苦しくて、闇を見上げるだけの夜。
まるで浮かぶ方法もないダイバーの様に息を搾り出す。

ナルト「へっきし!」

聞き覚えのある声に驚いていると、ソレはいつの間にか横に座っていた。

ナルト「で、もがいてるうちに目が覚めるんだ。」

本当に大丈夫か?と言って伸ばしたサスケの手を、ナルトは咄嗟に手を引いて避ける。

ナルト「あっ…いや、ははは…。」

不思議そうにナルトの眼を見る。
生きているんだって確かめたいならそう、深い海底を目指して、もう一度だけ息をしてみて…。


ナルト「そうだ!肉まん食うか?」
サスケ「…いいのか?」

冷気を裂いて湯気が立ち昇る。

サスケ「金は明日払う。」
ナルト「いいって、いいって。俺の奢り…いや、ホワイトデーって事で。」

ナルトは肉まんの紙を剥がしながら、さっきまでとは明らかに違う笑顔を浮かべる。

サスケ「ホワイトデー?」
ナルト「ほら、お前が貰ったバレンタインチョコ、ほとんど食ったの俺だし。」

ひと月前、大量のチョコを焼却炉に放り込もうとしているサスケを必死に説得し、サスケの家まで車で運んだのはカカシだ。
甘いものが苦手なサスケは結局処理に困り、秘密裏に部屋に招かれたナルトが6割は持って帰った。
これを読んで落胆する女子はいないだろうが、残りの4割はチョウジの自宅に後日投函された。

サスケ「あれか…。お前もアテが外れて残念だったな。」

フッと鼻で笑うサスケ。

ナルト「俺は別に…!」

明確な餌があって敢えて釣られてやったナルトだが、そこは色々心得たサクラの事、サスケが食べられる物を直接郵便受けに届けていた。

サスケ「お前だってちゃんと貰えたんだろ?良かったじゃねぇか。」
ナルト「まーな。」

やや小馬鹿にしたサスケの言葉に、棒読みで応えるナルト。
ナルトの戦果は「義理よ!」と念を押されたサクラのチョコがひとつ。
更に、全く同じサイズで同じ対極図の包装紙に包まれたシナモンロールが2本、下駄箱に入っているという奇妙な物だった。

サスケ「美味かったって言ってたじゃねぇか。」
ナルト「そりゃ言っても超高級お取り寄せスイーツだからな。」

そのシナモンロールをどうしても1本欲しいと言うキバに「どっちが欲しい?」と聞くと、暫く見比べた後に頭から煙を出して倒れた。

ナルト「も1個食うか?」

紙を丸めるサスケを見て、ナルトがビニール袋を差し出す。

サスケ「…サンキュ。」

夜中というのは妙に腹が減るものだ。
だがそれ以上に、誰かと食べる肉まんは妙に旨い。

ナルト「アレ、誰に返せばいいんだろ…?」
サスケ「さぁな…。」

サスケには2本とも贈り主の見当はついていたが、それをバラすのは何かルール違反な気がして言葉を濁す。
サスケはそんな所だけ変に律儀な性格だ。

サスケ(日向屋は知ってるのにヒナタと結び付かないんだな…。)

女子に同情なんて我ながら珍しい。

サスケ「とにかく、お前からの礼は受け取った。」

身体を起こし、ナルトと目線を合わせる。

サスケ「ま、お前だけだけどな。」
ナルト「なっ…よせって、照れるってばよ。」

間の抜けた様な沈黙。

サスケ「なんで照れるんだ?」
ナルト「…へ?」
サスケ「…ホワイトデーか…。」

まともに返した事なんか無いが、貰う立場になってみて初めて解る嬉しさが有る。
自分の行為に対し、相手の礼が返ってくるという好意。
成程、たかが菓子業界の戦略に乗ってやるのも悪くは無い。

サスケ「来年もチョコはやる。だから俺にもシナモンロールを一口よこせ。」
ナルト「へ?食いたいの?でも、来年も貰えるって決まった訳じゃ…」
サスケ「貰えるさ。…美味いんだろ?」
ナルト「そりゃもう!」

サスケが再び寝転んでフッと笑うと、ナルトも寝転んでニヒヒと笑う。

サスケ「その代わり、ホワイトデーにはきっちり礼をする。」
ナルト「おぉ!それってばいいな!じゃあ俺も、来年はもっとちゃんとした礼をするってばよ!」

肘を付いて、こっちを向いたナルトが目を輝かせる。

サスケ「肉まんでいいさ…。」

空が白んで風が止む。
徐々に日が昇ると、不思議なくらい暖かい。
二人の声はだんだん小さくなり、遂に聴こえなくなった…。

ただの幸せに気づいたら、もう二度と溺れないよ…。

数時間後、月曜日から学校に来ないナルトとサスケに、女子達は想定内の溜め息を漏らすのだった。
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