BLACK作

□天乃河狂詩曲
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七月初頭、まだ梅雨が抜けきらずジメジメとした空気が肌にまとわりつく。
木の葉隠れ臨時行政部と銘打たれた部屋には、貧乏クジを引かされた二人の姿があった。

サクラ「めんどくさーい。」
シカマル「なっ…お前がそれを言っちまうかよ…。」
サクラ「何よ、別にアンタの専売特許じゃ無いでしょ。」
シカマル「まぁ…な。」
サクラ「貧乏クジってクジがあるなら見せて貰いたいわ。私は一度だって自分から引いたつもりは無いわよ。」
シカマル「同感だ。」

承認の印を捺すだけの作業だが、一応書類に目を通さなければならない。
不備や誤りを見付けては、再提出と書かれた箱に入れる。

サクラ「…私はね、別に仕事が面倒とか言ってる訳じゃ無いのよ?」
シカマル「…じゃあ何だよ?」
サクラ「…恋愛?」
シカマル「…パス。」

そう言うとシカマルは、わざと視界を遮る様に未処理の書類の束を机に乗せる。
サクラは手を動かしながら、決して声に出さない様に思いに耽った。

幼い頃の自分は、幼いなりに恋をしていた気がする。
サスケの事を好きだと言った気持ちに嘘は無い。
…多分。
自信が無いと言えば、憧れと恋の違いが理解出来ていた自信が無い。
いなくなって初めて…なんてベタな事は言いたく無いが、去ろうとするサスケを止めようとした当時の自分の行動力には恐れ入る。
その反面、ナルトからのアプローチを嫌だとは思わずにいながらも邪険に扱ってきたのは、照れ隠しが半分、もう半分は、ナルトの気持ちは本当に恋なのだろうか?と自分に重ねていたからかも知れない。
もしくはもっと屈折した、サスケへの対抗心からだったりしたら、目も当てられない。
更に加えれば、カカシの事が気になっていた時期もあった。
しかし、それこそ年上の男性への憧れだろうと言われてしまえば返す言葉も無い。

サクラ「結局、誰が好きなのよ?」
シカマル「…は?」
サクラ「へ?」
シカマル「声、出てたぜ。」
サクラ「…どの辺から?」
シカマル「…殴らねーか?」
サクラ「殴る。」
シカマル「めんどくせー…。」
サクラ「そ、そうよ。結局、シカマルは誰が好きなのよ?」
シカマル「いや、取り繕わなくていいから。つーか、余計面倒な事聞くなよ。」
サクラ「テマリさんと仲が良いのは知ってるけど、イノも無くは無いんでしょ?
あと暗号解読の…シホさん?」
シカマル「待て待て、なんでそうなる?頼むから止めてくれ。」

徐々に興味を持ち始めたサクラの声色を嫌がり、まだ減っていない書類に更に上積みする。

サクラ「一番積極的なのはテマリさんよね。里同士の友好から見ても良い話だし。」
シカマル「人を政治の道具に使おうとするな。」
サクラ「結果的に、よ。恋愛結婚なら文句は無いでしょ?」
シカマル「例え話の飛躍が過ぎる。んな怖ぇ話するなよ。」

静かな室内に遠方の雷鳴が聞こえてくる。
雨音はしないが湿度は限界寸前だ。

サクラ「恐ろしい事に気付いたわ。私達って結局、職場結婚の可能性が一番高いんじゃないかしら。」
シカマル「あー…考えたくねぇ。」
サクラ「アンタ達はまだマシよ、アヤメさんとか商店の子も可愛いじゃない。私達にある出逢いなんて、忍か大名、あとは護衛対象くらいよ。」
シカマル「確かに、若い大名ってのは中々見ねぇな。」
サクラ「…滅入ってきた。シカマル、影真似で私に無理矢理仕事させて。」
シカマル「勘弁してくれ…。」

処理済みの書類は着々と増えていくのに、未処理の書類が減る気配が無い。
空の湯呑みを覗き込んで溜め息を付くサクラの背後から、気品あるノックの音が響いた。

ハナビ「サクラさん、お茶煎れました。少し休まれてはいかがですか?」
サクラ「ハナビちゃんありがと〜。そうだ、ハナビちゃん私のお嫁さんにならない?」
ハナビ「ふぇっ?!」
コウ「何を馬鹿な事を言っている。」
サクラ「じゃあコウさん、私を貰ってくれますか?」
コウ「冗談も程々にしろ。」
シカマル「コウさんも一緒って事は…。」
コウ「追加だ。」
シカマル「めんどくせー…。」
ハナビ「じ、冗談ですよね…びっくりした…。」
サクラ「私は全然、本気にしてくれて構わないんだけどね。」
コウ「無駄口を聞いてる暇はないぞ。再提出分は預かる、書き直させたらまた持って来るからな。さ、ハナビ様、行きましょう。」

コウは肩で扉を開け、さっさと部屋を後にした。
ハナビもそれに続き部屋を出ると、クルッと反転し丁寧にお辞儀をした。
頭を上げたハナビは、またねと手を振るサクラに気付くと、照れながら右手を振り扉を閉めた。

シカマル「やり過ぎるとセクハラになるぜ。」
サクラ「本人がそう感じて無ければ良いのよ。」

再び作業に戻る二人。
あの程度の息抜きでも、すれば能率は格段に上がるという事を、軽快な判の音が証明していた。
また数十分経っただろうか?
遠くからドタドタと走る音が聞こえてきた。

サクラ「シカマル、ナルトだったら私はいないって言って。」
シカマル「なんでだよ?」
サクラ「面倒だからよ。」

足音は一旦部屋の前を通り過ぎた後、トットットッと戻ってきた。
ノックもされずに開けられた扉の外には、いつもの金髪がいつものオレンジを着て立っていた。

ナルト「サクラちゃん、いる〜?」
シカマル「いねーよ。」
ナルト「そっか、邪魔したな。…っているじゃん!?そこにいるじゃん!!」
サクラ「見つかったか。」
シカマル「隠れてすら無ぇっつーの。」
ナルト「サクラちゃん、そろそろ帰るだろ?良かったら夕飯デートしない?」
サクラ「嫌。」
シカマル「ばっさりだな。」
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