BLACK作

□似ても妬いても食えない関係
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ジャキーン!
廊下からの不審な物音に気付いた三成は、愛用の鉄扇を手に取り机の影に身を潜
める。
「曲者じゃ!出合え!」と声を荒げるのは無能、自らの居場所を晒してどうする
、とは三成の持論である。
左近があの物音に気付かぬ筈が無い、すぐに駆け付けるだろう、と思いつつも、
左手は懐に忍ばせた毒煙玉に伸びつつあった。
徐々に大きくなる足音に固唾を飲むが、夕陽に延びた異様な影を確認すると、深
い溜め息を吐いて臨戦態勢を解く。
障子には長剣を携えた天狗の様な影が映り、三成の私室の前で止まると髪やら服
を直し始める。
八割強、状況を理解した三成は、形だけ仕事机に戻り影が入って来るのを待つ事
にした。
一つ咳払いした後、影は左手を障子に掛け、勢いよくピシャッと開けた。

曹丕「帰ったぞ、三成。」

そう言って半歩室内に入った曹丕は、翼を障子に引っ掛けて後ろに引っ張られる


三成「とんだ阿呆天狗だな。」
曹丕「何を言う、これは異国の大天使だ。」

右足で障子を蹴り開け、今度こそ引っ掛からない様に慎重に入室した曹丕は、何
事も無かったかの様に三成を見下ろしながらフンと笑う。

三成「では堕天使殿、まずは城内で武器をオーバードライブさせてる理由から聞
かせて貰おうか。」
曹丕「駄天使とは失敬な。しかし、良い所に眼を付けたな。見よ、この剣を。遂
に完成した五行太極剣だ。」

そう言いながら夕陽に掲げられた刀身は、邪悪な気を帯びて輝いている。

三成(陰属性…。剣を自慢する為にわざわざ来たのか?)
曹丕「…。別にこの剣を自慢しに来たのでは無いぞ。」

三成の興味無げな視線を受け取った曹丕は、構わず畳に剣を突き立て三成の側に
歩み寄る。

曹丕「…取り敢えず仕事はしていない様だな。腹が減った。何か無いか?」
三成「その横暴な態度と『帰った』と言う言葉の意味も聞かせて貰えるかな、鳥
人間殿?」
曹丕「夢幻を用いれば琵琶湖ぐらいなら飛んでやれるがな。…解らんか?入梅前
に来た方が楽だろう?しかし梅雨とは厄介なものだな。」

その言い草に三成は、曹丕がまた暫く居座るつもりなのを理解した。

三成「左近!曲者だ!出合え!」

城主の声に、果物の入った籠を抱えて小走りで駆け付けた腹心は、曹丕を見るな
り自然な笑顔を見せる。



左近「これは曹丕様、お早いお着きで。こちら立花のお嬢からの土産で甘夏と八
朔、琵琶に杏です。」
曹丕「本当に良く出来た
娘だ。前々から一言礼を言いたかったのだが、本人はい
ないのか?」
左近「えぇ、果物を降ろした空の荷車を牽いて、毛利さんトコに行くって言って
ました。宗茂さんも先に行って待ってるとかで。」
曹丕「そうか。毛利とやらの書、私も一度読んでみたいものだな。」
左近「伝えておきます。それではごゆっくり。」
曹丕「そうだ左近、今度の土産は三味線が良い。父上が蔡文姫に見せてやりたい
そうだ。」
左近「では元親さんに遣いを出しましょう、お帰り迄には届くと思いますよ。」

そう言い残して去った左近は、遂に一度も三成と目を合わせる事は無かった。
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