BLACK作

□糸で繋がる、もう半分
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「神農、及び空忍を名乗る勢力による木ノ葉の里襲撃事件についての報告

8月2日、朝(精細な時間は不明)、飛行機械(チャクラの性質変化を利用していると思われる。解析調査中。)を使用した忍、数十名の飛来を確認。無差別攻撃の後、声明、布告等無く撤退。同時刻、市街地に於いて負傷者の治療を行う神農をうずまきナルトが確認。その後、戦時下病院施設にてアマルという少女(自称、神農の弟子。)と接触。彼女の村が襲撃を受けた事実を確認。現地の調査にうずまきナルト、春野サクラ、日向ヒナタの三名を派遣。更に敵忍の撤退経路から前線基地の特定に成功。奈良シカマル、畑カカシ、油女シノ、サイの四名を派遣。
同日中に敵勢力の撃滅に成功。


経過に関しては
『うずまきナルト』
『奈良シカマル』
の報告書を参照の事。

空忍については過去文献と共に別途記載。

神農については協力者『アマル』の証言調書を参照。

10月10日
記録者 シズネ」


シズネ「あひぃ〜。報告書まとめ終わりました、綱手様。」
綱手「随分かかったね。間に合わないかと思ったよ。」
シズネ「ナルト君から報告書が上がってきたのが昨日の夕方ですからね。」
綱手「仕方無いだろう。サクラもヒナタも怪我人の治療をしているんだ。それでもまだ医者が足りない。かと言って任務を疎かにして他国に今回の事件を知られるのは避けたい。報告書くらいナルト一人で書いて貰わにゃ困る。」
シズネ「ナルト君、相当悩んだみたいですね。何度も書き直した跡が残ってます。」
綱手「それでも嘘をつく事無く、零尾の事も、サスケの事も書いてある。努力も成長も認めるよ。」
シズネ「そうですね…。あっ!綱手様、そろそろ式典に向かう準備を。」
綱手「もうそんな時間かい?ゆっくり茶を飲む暇も無いのかい。」
シズネ「会場でお飲み下さい。さぁ、行きますよ。」


木ノ葉襲撃から2ヶ月ほど経ち、復興も落ち着いてきたある日、ナルトは一楽の前に立ち尽くしていた。

ナルト「〔本日臨時休業〕…って、えぇぇ!?なんでだってばよ!?」

仕事の後の一杯。
と言ってもラーメンであるが、この楽しみが有るのと無いのとでは体力の回復度が違った。

シカマル「たまには別のモン食えって事じゃねーか?」

振り返ると、やる気の無い顔のシカマルと不機嫌そうなテマリが歩いて来た。

ナルト「…デート?」
テマリ「ばっ!?違うぞ、うずまきナルト!私はただ…」
シカマル「復興支援だよ。と言っても、支援終了の手続きだけどな。」
テマリ「そうだ。だいたいコイツがそんなものに誘ってくれるタマか。」

そう言うとテマリは「ふん」とそっぽを向いてしまった。

シカマル「仕方ねーだろ。お前が好きな甘栗甘は今日、休みなんだよ。」
ナルト「はいはい、ごちそうさま。…って、甘栗甘も休みなのか?」
シカマル「何言ってやがる。ほとんどの店は今日、休みだぞ。知らなかったのか?」

ナルトが「初耳だってばよ」と目をパチパチさせていると、突然。

テマリ「帰る。」
シカマル「はぁ?!」
テマリ「帰る!」
シカマル「な…おい!ちょっと待てよ!ちっ…めんどくせー…。じゃあな、ナルト。…おい!待てってば!」

小走りでテマリを追いかけるシカマルを見ながら「昼飯どうしよう…」と考えたナルトは、開いてる店が無い訳ではない事に気付き、僅かな希望を胸に歩き出した。


ナルト「おいおい…本当にどこも開いてねーってばよ。イノんちまで休みじゃねーか。一体どうなってんだ?」

木の葉の門から火影岩まで至る目抜き通りの全ての店が閉まっていた。
異様な光景に戸惑うナルトに、意外な人物が声をかける。

ネジ「ナルトか?こんな所で何をしているんだ?」
ナルト「ネジか…俺ってばもう、腹が減って動けねーってばよ〜…。」
ネジ「む………ナルト、豚汁は好きか?」
ナルト「とん…じる?まぁ、嫌いじゃねーけど。」
ネジ「では付いて来い。多少の腹の足しにはなるだろう。」
ナルト「マジで?!どこで食わしてくれるんだ?!」
ネジ「…日向の屋敷だ。」


カコーン

少しずつ色付き始めてきた庭木の中、獅子脅しの音が涼しさを運んでくる。
日も沈みかけ虫達も鳴き出す時間、ナルトは畳の香りがする部屋に正座していた。

ハナビ「豚汁、御持ちしました。」
ナルト「お、おぅ。ありがとうございますってばよ。」
ネジ「そう畏まらなくてもいい。ハナビ様、ありがとうございました。ヒナタ様の手伝いに戻って差し上げて下さい。」
ハナビ「はい。では、失礼します。」
ナルト「な、なんか緊張するってばよ〜。」
ネジ「心配するな。今この屋敷には、ほとんど人はいない。」
ナルト「こんなに広いのに?皆でどっか出掛けてんのか?」
ネジ「…そうだな。食べ終わったら教えてやろう。」
ナルト「ん〜…。ま、そういう事なら、いただくってばよ〜♪」

腹の減ったナルトは、丼いっぱいの豚汁を瞬く間に完食。
むしろ足りないくらいだ。
ナルトは慣れない状況で、おかわりを頼むこともできず黙ってしまった。

ネジ「ん…あぁ、足りないか?気持ちは解るが我慢しろ。………そろそろか…?」
ナルト「ん?外でなんかやってるのか?」

食べてる間は気にならなかったが、静かにしていると遠くから賑やかな声が聞こえてくる。

ナルト「…祭?」
ネジ「…よし。ナルト、これから慰霊碑に行くぞ。」
ナルト「ん?なんでだってばよ?」
ネジ「火影様から、時間がきたらお前を連れて来てほしいと言われているんだ。」
ナルト「あ、それで珍しく屋敷になんて呼んでくれたのか…。」
ネジ「いや、それは…お前の様子を見に行ったんだが、あまりに腹を空かせていたからつい…。」
ナルト「…。」
ネジ「…ま、まぁ、なんだ。火影様を待たせても悪い。とにかく慰霊碑に向かおう。」

日も沈み辺りはすっかり暗くなっているが、遠くにはぼんやりとした明かりと、多数の人影が動いているのが見える。
慰霊碑に近づくにつれ、賑やかな話し声や笑い声が聞こえてきた。

ナルト「な、なんだ?すっげ〜人だってばよ!?」
ネジ「そうだな。思った以上に集まってるな。」
ナルト「あれは…一楽の屋台!?甘栗甘に、焼肉屋まで来てるじゃねーか!?」

出張一楽では、イルカがこっちに手を振っている。
甘栗甘では、シカマルの横でテマリが美味しそうに何かを食べている。
焼肉屋で騒いでいるのはチョウジとイノだ。
ヒナタとハナビは大きな鍋で豚汁を振る舞っている。
他にも沢山の出店が出ており、向こうには酔っぱらった中忍達も見える。

ナルト「なんだこりゃ…」
ネジ「ナルト、まずは火影様の所に行こう。」
ナルト「お、おぅ。」

綱手「おお!来たかナルト!」
ナルト「ばあちゃん。これってば、何だってばよ?」
綱手「待ちくたびれたぞ。それじゃ始めようか。」
ナルト「ちょ、話聞けってば。ばあちゃん!」

キーーーン―――
マイクの音がして、皆が一斉に綱手の方を見る。
ゴホン、と一回咳払いをし、綱手が壇上に上がる。

綱手「皆、今日はよく集まってくれた。木ノ葉襲撃事件の復興も取り敢えず落ち着き、皆の生活も平穏を取り戻してきた事と思う。今回の事件は、不幸中の幸いか、負傷者こそ多いが死亡者は極めて少ないという結果に終わった。そこで遺族の希望も有り、追悼と復興祝い、さらに英雄の表彰をまとめて、今日はパーッとやるぞー!!」




おーーーー!!!!

シズネ「綱手様、ちゃんとやって下さい!」
綱手「あー、解ったよ。うるさいねぇ…。うずまきナルト!前に!」
ナルト「お、おぅ!!」
綱手「今回の活躍は見事だったぞ!火影として、改めて礼を言う!」
ナルト「おう!」
綱手「そして…誕生日、おめでとう!」
ナルト「おう!…え?」

あまりに突然の事で一瞬理解できなかったが、言われてみれば確かに今日は自分の誕生日だ。
壇上で「あー…そーいえばー…」と固まっているナルトに、サクラが下から声をかける。

サクラ「なんて顔してんのよ。…ナルト、お誕生日、おめでとう♪」
ナルト「あ、うん。ありがとう、サクラちゃん。」

パチパチパチパチ…
誰からともなく、会場からは拍手の音が湧き上がってきた。
それは段々大きくなり、やがて口々に祝いの言葉が聞こえてきた。
「よくやったな!」
「ナルト君、誕生日おめでとう。」
「よっ!未来の火影!」
「大活躍だったらしいじゃねーか。」
「パパを助けてくれてありがとう!」
「うぃ〜ナルとぉ〜☆@♭♪」
中には酩酊状態で何を言っているのか判らない者もいたが、皆一様に里の英雄を祝い、称えていた。
いつのまにかナルトも壇下に引っ張り下ろされ、里の仲間に囲まれていた。

シズネ「良かったですね、ナルト君…。」
綱手「あぁ。未だ九尾を忌み嫌う者達は来てはいないが、それでもまさか、こんなに集まるとは思っていなかったよ。」
シズネ「なんと言っても、里を救った英雄!ですからね♪」
綱手「あまり調子に乗られても困るがな。」
シズネ「ふふふ…ですね♪」

ひととおり騒ぎ終えたのか、ナルトを囲む輪は解散し、皆また思い思いに宴を楽しんでいる。
当のナルト本人は、少し離れた樹の下で、火照った体を冷ましていた。
(びっくりしたってばよー。)
ナルト自身、予想外という範囲を遥かに越えていた。
まさか自分の誕生日がこんな形で、しかもこんなにも沢山の人に祝ってもらえるなど、夢にも思わなかった。
去年まではと言えば、まず任務の集合場所でサクラが祝ってくれる。
そういう所はさすが、女の子といったところか。
次に、サクラにどやされ、思い出したかの様にカカシが祝いの言葉を掛ける。
任務が終わって里に帰ると、偶然会った知り合いは「おめでとう」と言ってくれる。
ヒナタだけは毎年欠かさず言いに来てくれるが、他の者は任務もあるとみえて、わざわざ言いに来てくれる事は稀だ。
その後、イルカと共に一楽で小さなパーティーを開く。
大体そんな感じだ。
しかし今年は違った。
復興祝いの席とは言え、顔も知らない沢山の人が自分の誕生日を祝ってくれた。

ナルト「へへっ、これってばでっかい誕生日パーティーみたいだな…♪」

嬉しかった。
誕生日の夜を一人で過ごしていない。
それだけで凄く、凄く嬉しかった。
昂る鼓動を諫めるかの様に、深呼吸をする。
その時、ピュン!と何かが頭の側を通り過ぎ、金色の髪がパラパラ‥と舞った。
驚いたナルトが振り向くと、樹には千本がひとつ刺さっている。
何かが掛かっているのを見付けたナルトは、千本を抜こうと手を伸ばした。
ビリリッ!

ナルト「いてっ!…こ、これってまさか…。」

千本を抜くと何かがカサッと音をたて草むらに落ちた。
それを拾い上げ、月明かりに掲げる…。

ナルト「!?」
サクラ「…そこにいるのはナルト?…なぁに、それ?ギターピック?」
ナルト「さぁ…?」
サクラ「見せて。うわ、凄いわよこれ!顔が彫ってある。普通に彫ったんじゃないみたい…。チャクラメスの応用かしら…。でもこんな細かい細工、私でも難しいわよ…。どうしたの?コレ。誰かからのプレゼント?」
ナルト「ん〜。多分。」
サクラ「多分てなによ。はい、返すわ。…っと、じゃあ、イノが呼んでるみたいだから、私行くわね。アンタも少し涼んだら戻って来るのよ!なんてったって、主役なんだからね♪」
ナルト「うん。すぐ戻るってばよ。」

一人になったナルトは、再びネックレスを月に掲げる。
そして何かに気付いたかの様に…。

ナルト「ぷっ…くくく…ははは…ぎゃはははは!あーあ。あのバカ、何考えてるんだってばよ。これじゃ俺が、俺の顔のネックレスつけるハメになるじゃねーか。気付かなかったのか?…ま、ありがたく頂いてやるってばよ。………サンキューな、サスケ。」

そう言うとナルトは、そのネックレスを静かに首にかけ、皆の元に戻って行った。

『ナルト…誕生日、おめでとう…。』

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