BLACK作

□文月の玉梓
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大蛇丸のアジトで運命の再開を果たしてから幾月か後、木の葉の里は遅めの梅雨に濡れていた。

コンコン

サクラ「ナルト、いる?開けるわよ」
ナルト「サクラちゃん?鍵は開いてるってばよー!」

カチャ

書類が濡れない様に服の中にしまったまま、サクラは背中で戸を開ける。

サクラ「よっと…アンタまたカップラーメン?つーかラーメンと牛乳って合うの?…ってそんな事はどうでもいいわ。これ、師匠から」
ナルト「ばあちゃんから?俺ってば最近は始末書書くような事、してねーけど」
サクラ「違うわよ。大蛇丸のアジトの再調査の報告書。やっぱり足跡の手掛かりになる様な物は出てこなかったみたいね」
ナルト「そっか。ま、だと思ってたけど」
サクラ「確かに渡したわよ。じゃあ私はまだ仕事があるから行くわね」
ナルト「あ、サクラちゃん!雨、強くなってきたし、雨宿りしていかない?それに、サクラちゃんが食べたがってた砂隠れの里のアイスクリーム!この前の任務の帰りに買って来たんだってばよ」(注1)
サクラ「う〜ん…確かにアイスには惹かれるけど、まだ仕事が残ってるって言ったでしょ?それに…」
ナルト「それに?」
サクラ「カビ臭い」

バタン

ナルト(ガーーン)

少し部屋を片付けようかな…と思いつつ、報告書をパラパラ見ていた。
初めは軽く目を通していただけだったが、サスケの痕跡、行動への興味、それが手伝って、柄にも無く何度も、隅々まで何度も、何度も報告書を読み返した…。

気付くと日は完全に沈んでいた。
まだ降り続く雨に、ナルトは少し肌寒さを感じていた。

ナルト(一楽で暖まろうかな…)

ナルト「おっちゃん、ちはー」
テウチ「よぉナルト、味噌ラーメンでいいのかい?」
ナルト「おぅ!」
サイ「やっぱりナルトは味噌ラーメンが好きなんだね。テウチさんの言った通りだ」
ナルト「ぅおわ!サイ!?珍しいな」
サイ「うん。友達の好きな物を好きになろう、って本に書いてあったから。それより、サクラさんから報告書受け取った?」
ナルト「あぁ。読んでたらすっかり遅くなっちまった。しかもサクラちゃんに、部屋がカビ臭いって言われた…」
サイ「カビ臭い?押し入れに大量の紙とかしまい込んでない?湿気が溜まると良くないよ」
ナルト「そう本に書いてあったのか?」
サイ「いや、常識」
ナルト「そうですかー」
サイ「じゃ、僕はお先に。ごちそうさま。またね、ナルト」
ナルト「あぁ、またな」


翌日、任務の無いナルトは家にいた。
外はまだ雨だ。
もう三日は降り続けているだろうか。

ナルト(雨は好きじゃないってばよー)

ごろごろしていたナルトの脳裏に、昨日の二人の言葉が思い出される。

(サクラ「カビ臭い」 サイ「押し入れに大量の紙とかしまい込んでない?」)

ナルト「掃除…しようかな…」

ナルトは重い腰をあげ、押し入れに向かった。
何故なら、確かに心当たりがあったからだ。

ナルト「多分、この辺だろうな〜」

ガラッ

普段は開けない押し入れを開けると、確かに少しジメッとしていた。

ナルト「アカデミーの教科書とか全部、突っ込んだままだからなー」

とりあえずは紐で縛ってあるものの、何から何まで捨てもせずにしまわれていた。
そこから手前の一つを引っ張りだし、紐を解く。

ナルト「これは…テストの問題と解答用紙?捨て!次!………遠足の…お知らせ?こんなモンまで…次!………授業参観の……………次!」

半分を過ぎ大半がゴミとなる中、ある紙を見たナルトの手が止まった。

ナルト「暗号実習!懐かしいな〜。暗号で手紙を出し合ったりしたんだよな」

授業自体は至ってシンプルだった。
毎回授業毎に違う変換表が渡される。
それに則って手紙を書き、相手に渡す。
受け取った側は暗号を解読し、返事を書く。
その繰り返しだった。

ナルト「これは…チョウジからか…この時の変換表は…あった!なになに…『おなかすいた。はやくおひるにならないかな』…うん。次はキバのか…」

本人は覚えていないが、ナルトは授業中、手紙を出すばかりで解読は苦手だった。
「書くのがめんどくせー」と言っていたシカマルに読んでもらい返事を書いていた。
今なら難なく読める暗号手紙に、いつしか掃除の手は止まっていた。

ナルト「さぁて次は………サスケからの…手紙…。」

ナルトの表情が曇る。
(サスケ「俺の気まぐれでお前は死ぬんだ」)
何度夢に見ただろう。
その度に翌朝、枕は窓辺に干されていた。

ナルト「…ん?たった5文字?…変換表は………『ありがとう』…?(なんだこりゃ?)」

しばらく考え込んでいたナルトであったが、思い当たる節が無い。
とは言え、一度気になりだしたが最後、無視して掃除に戻る気も無くなっていた。
挙げ句に行き着いた考えがこれだった。

ナルト「シカマルに聞いたら何か解んねーかな?」

ダメで元々、シカマルに聞いても解らなかったら、諦めが付くかも。
と言う発想だった。
幸いシカマルを探すのには苦労しない。
いくら忙しいと言っても仕事は早いのがシカマルだ。
仕事が終わればアソコにいる。
いつもの屋上に。


ナルト「やっぱりいたってばよ。おーいシカマルー。」
シカマル「ん?ナルトか。雲は良いよなー。」
ナルト「雨雲じゃねーか。俺ってば雨は嫌いだ。」
シカマル「確かに。濡れるのは面倒臭せー。で、何か用か?」
ナルト「あぁ、これなんだけど…」
シカマル「…なんだ、随分懐かしいモン持ち出して来たな」
ナルト「意味、解るか?」
シカマル「意味?意味ってお前…ん、あぁ、なるほど。そういう事か。言いたい事は大体解ったぜ」
ナルト「おー!さすがシカマル!で?で?」
シカマル「これは[返事]だな」
ナルト「返事?」
シカマル「そうだ。ナルト、コイツはお前が渡した手紙に対するサスケの返事だ」
ナルト「おぉ!なるほど!…って、さすがにシカマルでも、何でそんな返事が来たのかは…」
シカマル「解るぜ」
ナルト「えぇっ!?なんで!?どーしてだってばよ!?」
シカマル「ヒントはこの紙に書いてある。が、答えは教えてやんねー。それはお前が思い出さなきゃいけねー事だ。ほらよ、返すぜ。隅々までよく見てみる事だな」
ナルト「んむむ…とりあえずありがとな」

そう言うとナルトは屋根伝いに帰って行った。
その背中を見ながらシカマルは、なんともいたたまれない気持ちになり、目頭を押さえて仰向けに寝転んだ。

シカマル「ったく。何でこんな時期にあんなモンを持ち出して来るんだか…。(因果か…運命か…絆か?…いや、ナルトに言わせりゃ『繋がり』だったな…)」

家に戻ったナルトは、まだ手紙を眺めていた。

ナルト「ありがとう…ありがとう…なんか礼を言われる様な事、したか?」

カップラーメンを食べながら考え込んでいたら…

ピチョン

ナルト「わわ!手紙に汁が!…っと、よかった。字が書いてある所には跳ねなかったみてーだな。…ん、そう言えばシカマルが隅々までよく見ろって言ってたな。んな事言っても普通のプリントなんだけど…」

しかしシカマルの言う事だ。
間違っているはずが無い。
ナルトはもう一度、初めからしっかり読んでみる事にした。

ナルト「えーと、第32回、暗号実習用プリント。いっしょにくばられた[へんかん表]をつかって、友達にお手紙を書いてみましょう。今回の[へんかん表]は、32番です。まちがえないように、ちゅういしましょう。っと。それから…。[うちはサスケ]から[うずまきナルト]へ。壱木、玖火、弐木天、肆水、壱土。で、これが『ありがとう』だろ。で、手紙をもらったら、ちゃんとかいどくして、お返事を書きましょう。なれてきたら、先生にもお手紙を書いてみましょう。んで最後に、実習日、7月23日。…7月23日…明日だな………あ!」

ナルトは立ち上がった。
全てを理解した。
同時に全てを思い出した…。



あれは暑かった7月23日の朝、アカデミーへ向かう途中、ナルトは前を歩くサクラとイノを見掛けた。

ナルト「あ…サク」
イノ「ねぇサクラ、知ってる?今日はサスケ君のたん生日なのよ」
サクラ「え…そうなの?わたしプレゼントとか、なんにも用意してないよぅ。どうして教えてくれなかったの?」
イノ「むだむだ。サスケ君、まい年受け取ってくれないもの」
サクラ「そうなんだ…」
ナルト(そうなんだ…)

イルカ「プリントは行き渡ったか?ではいつも通り、実習始め!」
ナルト「んー。なにをかくかまようってばよ♪ってばよ♪」
シカマル「楽しそうだな、ナルト」
ナルト「そりゃーじゅぎょうを聞いてるより、よっぽど楽しいってば♪ってば♪」
ペシ
ナルト「いて」
キバ「うけとれナルト!」
ナルト「おー!はえーなキバ!…シカマル、読んで」
シカマル「はいはい…。………『さかあがりできるようになったぜ、ざまあみろ』だと」
ナルト「なにぃ!キバめ!キバのくせに!」
シカマル「いみわかんねーよ。お前も早く書け」
ナルト「そうだった。えーと、えーと。あ!」

ナルト「できた!へっへ〜。いってくるぜ」
シカマル「おう。…っておいおいナルト、まさか」

ナルト「ん!」
サスケ「…あん?」
ナルト「手紙!」
サスケ「オレに?」
ナルト「おう!」
サスケ「…」

ナルト「にんむかんりょうだってばよ!」
シカマル「ナルト、まさかケンカ売ってきたんじゃないだろうな?」
ナルト「ちげーよ」
シカマル「じゃあなんて書いてわたしてきたんだ?」
ナルト「×××××」
シカマル「…へぇ。なるほど…そいつは…。おいチョウジ!イノも!ちょっと来い」
チョウジ「なに?シカマル」
イノ「なによ」
シカマル「×××××」
チョウジ「へぇ、おもしろそうだね」
イノ「あたしサクラに教えてくる」
シカマル「オレはキバとシノあたりか…」

サスケ「な!?なんだお前ら!」
キバ「手紙だ」
イノ「受け取って」
チョウジ「ボクも書いたよ」
サクラ「わ、わたしも」
シノ「これはじゅぎょうだ。受け取らなくてはならない」
シカマル「って事だ」
サスケ「ったく…」
シカマル「返事はべつにいいぜ。20まいくらい書かないといけないからな」
イノ「あたしはお返事ほしいなー」
サクラ「イノ、わたしたんだからせきにもどらないと…」
イノ「はいはい。サクラはまじめねー」

ナルト「シカマルおかえりー。みんなでなにあつまってたんだってばよ」
シカマル「お前と同じだよ」
ナルト「?」
シカマル「気にすんな」
ナルト「ん。わかった」
ペシ
ナルト「いて」
サスケ「受け取れナルト」
ナルト「お、おう」
サスケ「…ふん」
ナルト「…シカマル、読んで」
シカマル「はぁ…。ん、短いな。…『ありがとう』だとよ」
ナルト「そっか。へへ♪そりゃよかったってばよ♪」



ナルト「そうだった…明日は…」

ナルトが外に目をやると、雨はすっかり止んでいた。
時刻は丁度、日が変わる直前だった。
ナルトは手紙を持ったまま屋根に登った。
久々に晴れた夜空は、満天の星空だった。
ナルトは遥か遠くを見つめ、静かに呟いた…。




ナルト「サスケ…どこにいるか判んねーけど、聞こえるか?きっと届いてるって、信じてるぜ…。サスケ…」


サスケ
誕生日おめでとう。
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