小噺

□犬彦物語A
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「善は急げだ。ほら明彦、長鳴神社に行くぞ」
真田(犬)に向かって手を伸ばした桐条だが、当の真田(犬)は遊んでくれるとでも思ったのか荒垣の傍から離れ(その時に荒垣が若干残念そうな表情をしたのには、幸い誰も気付かなかった)、桐条に向かって飛び付いて行った
「わん!」
「ぅわ…っ!?」
中身が犬とはいえ、外見は立派な男子高校生である
そんな真田(犬)に飛び掛かられ、バランスを崩し真後ろのソファーに倒れ込む桐条
その上から真田(犬)が覆い被さり、首筋に頬を擦り寄せる
「ちょっ…明彦…っ、やめろ、くすぐったい…!ふふ…っ」
親愛の情を伝えるように鼻筋を何度も擦り付ける真田(犬)に、始めはくすぐったがるだけだった桐条だが、擦り付ける箇所が鼻筋から唇へと移り変わると共に、だんだんその表情に艶の様なものが帯び始めてきた

「あ…明彦…やめろ…本当に、もう…やめ……ぁ、や…ん…っ!」

終いにぺろ、と耳たぶを舐められた時、桐条の中で何かがプツンと切れた

「……いい、加減に…っ、しろおおぉぉぉ!!!!」

スパーン!と小気味良い音を立てて、真田(犬)の顔面に張り手を叩き込む
キャイン!と情けない悲鳴を上げながら真田(犬)は床に倒れ伏した
「ア、アキ!?」
条件反射で思わず駆け寄る荒垣だったが、その前に桐条が真田(犬)の襟首をがしりと掴み上げる
「…どうにも元の人格に似て、躾がなっていないようだな…」
地の底から這うような声音で呟き、くるりと裏口へと続く方向に向きを変える

「……“調教”だ」

何やら不吉なセリフをぼそりと言い残し、キューン、キューンと鳴く真田(犬)を引き摺りながら桐条は裏口のドアへと消えて行った…



―― ラウンジに残されたメンバーの間に、しん…とした空気が広がる

「今…何か見ちゃいけない空間を見ちゃった気がするんだけど…?」
顔面蒼白の伊織がカタカタと震えながら尋ねる
「いや…気のせい…でしょ…?ほ、ほら、先輩たちが戻るまで他の治す方法考えてよう!?ね!?」
「そ…そうですね!」
岳羽と山岸が場の空気を無理矢理変えようとする中、リーダー天月が再びアイギスに尋ねた
「アイギス、真田先輩が最後に何て言ってたか分かる?」
「助けて!シンジ助けて!…と言っていたような気がするであります。何しろ今の真田さんの知能指数はコロマルさんと比べて少々アレでしたので、思考が上手く感じとれないでありました」
さりげなく暴言を吐いたアイギスに、荒垣はというと…

「アキ…悪ぃ、相手が桐条じゃどうしようもできねぇ」

あっさりと投げていた

果たして、幼なじみにも見捨てられた真田(犬)の運命は如何に…?

To be continued…

*まだ続くのか!と自分でツッコミを入れました
如何に、じゃないですよね
すみません、多分次回で完結かと思います…
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