小噺

□プリンセス・スノーホワイト
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「…つまりあれか、他の女子が姫役やんのは嫌だけど、アキならいいってか?」
引きつり気味の問いかけにこくり、と小さな頭が上下する
「おにいちゃん、ミキといっしょ。白くてかわいいから、おにいちゃんならお姫さまやってもいい」
妹にそんな風に見られていたと知った明彦は、半ば呆然としながら事態を飲み込めずにいた

「だ、だけどな美紀、アキは男だぜ?…そりゃ…たしかに可愛いけど…(ゴニョゴニョ)」
「おにいちゃん以外にはお姫さまあげない!」
頑として意見を曲げずにいる美紀に、二人は助けを求めるように成り行きを見守っていた園長を見上げた
「美紀ちゃんと明彦くんさえよければ、私たちは構わないわ。…どう?明彦くん」
おっとり、という形容詞を人にしたような老婦人が、柔らかい笑顔を浮かべ聞いてくる
「え…えと…」
「アキ、無理すんなよ。嫌ならやらなくていいんだぜ」
しどろもどろしている明彦に真次郎が助け船をだす
だが、今にもまた泣き出しそうな顔をした妹に下から見つめられて、明彦は結局その提案を断る事ができなかった


「…で、何で俺が王子役なんだよ」
不機嫌なことこの上なし、といった表情で、パサパサの頭に不似合いな王冠を乗せた真次郎が舞台の脇に立っていた
「前の王子役の子がね、美紀ちゃんがお姫さまじゃないならやらないって投げ出しちゃって…美紀ちゃんモテモテねぇ〜ほほほ…あ、ごめんごめん。そういう訳だから明彦くんの相手役が見つからなかったのよ…真次郎くんいつも一緒にいるでしょう?背丈もぴったり釣り合ってるし、お願いね!」
院内では比較的若い年代(それでも30代前半ぐらいか)の女性職員が、やけに浮かれた様子で真次郎にそう言ってきた
どうやら前者に続き、新しい姫役の子も大層気に入ったらしい(男子にも関わらず)
急ごしらえとはいえ徹夜で衣装を合わせ、見事に本番に間に合わせたのだからその情熱には感服するばかりだ
だが真次郎は今までにない低いテンションで自分の出番を待っていた

精神面が少し早熟している真次郎は、こういった表舞台で何かをやるということに大きな抵抗があった
早い話が、『こんなガキ臭いことやってられるか』である
ただでさえ付け焼き刃の単独練習でまともな演技も出来そうにないのに、大勢の年少組相手に似合いもしない格好をさらさなければいけないのだ
苦痛以外の何でもない
「ほら、真次郎くん出番よ、頑張って!」
演技担当の職員が景気付けに強く背中を押す
盛大な拍手に包まれながら、真次郎は舞台の中央へつんのめるように出た
(うわぁ…もう帰りてぇ…)
何十人という幼い視線が一斉に真次郎に向けられる
じっとりと背中に嫌な汗をかきながら、早く終わらせるために舞台上に置かれているガラスの棺(もちろん段ボール製だ)に歩み寄った
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