小噺

□あなたに首ったけA
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「でも俺は桐条先輩のあの格好が気になりますね…決して今時の流行を捉えたとは言い難いながらも個人の魅力を存分に引き立てるべく選ばれたノースリーブのシャツに、まだはじける暑さの中だからこそ映えるシックなレース仕様の膝丈スカート…俺たちが影で抹殺しなかったら、あの人三十分で八人にはナンパされてますよ」
背後に積み重なる哀れな夏の男達の亡骸(桐条に声を掛けようとした所を羽交い締めにして路地裏に連れ込んだ後の姿)を眺め、天月は煩悩まみれでありながら無駄に天才の頭を捻った
「だよなぁ…絶対何かあるよな」
リーダーの言葉に伊織も少ない頭脳をう〜んと捻ったが、交番の中で黒沢巡査と雑談をしている二人からは何とも判断が付かない
本当にただの買い出しなのか、それとも…――
四人(特にさっきから黙ったままの荒垣)の心は焦れる一方だった


「あ、出てきたよ!」
交番のガラス戸を通り抜けた桐条と真田に、いち早く気付いた岳羽が声を上げる
すると同時に、交番の右隣にあるジュエリーショップからも小柄な影が二つ現れた
「おい、あれ…風花とアイちゃんじゃねーか」
伊織の言葉通り、小さな紙袋を手に持った少女はSEESメンバーの山岸とアイギスである
二人も真田たちに気付いたのか、ぺこりと会釈をしてから近付いて行った

「真田先輩、桐条先輩、こんにちは」
「こんにちはです」
「山岸、それにアイギスも…二人で買い物か?」
見知った顔に少し驚いたものの、すぐに表情を和らげて桐条が尋ねる
「はい。対話コミュニケーション力向上の為、風花さんに協力を要請して“はじめてのおつかい”を行なったであります」
「アイギス、凄いんですよ。とても初めてとは思えないくらい堂々とした態度で、流暢な関西弁を使って値切りまでしてたんですから」
「ディスカウントの交渉は30%OFFまでなら確実に出来るよう、プログラムされているであります」
キュイーンと頭部のモーターを回し、アイギスが自信満々に言い放った
「ほう、さすがだなアイギス」
「先輩たちもお買い物ですか?」
「あぁ、ちょっと新しい武器をな」
「そ、そうですか…」
見た目は上品な二人が放つ殺伐とした発言に若干引いた山岸だが、すぐに思い付いたようにぱっと顔を上げた
「あの、よければそこのお店も覗いてみてください。秋に向けての新作とかあって、とっても素敵でしたよ」
後輩の笑顔に釣られて二人が見た先には、様々な年代に愛されるジュエリーショップが入り口を開けて客の訪問を待っていた
「……だ、そうだ。行ってみるか?」
「いや、しかし私は…こういった貴金属の類いは似合わないからな…」
真田の提案に躊躇する桐条だったが、山岸が「そんなことないですよ!」と言う前に

「そうか?美鶴は綺麗だから似合うと思うが」

――と、真田がさらりと言ってのけた

「……え?」

「!!」
「!?」
「………」

その時の様子を後にアイギスは、「確かにあのとき、みなさんの体内を流れる時が一時停止したであります」と語っていた
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