小噺

□血の味
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「きったねぇツラ」

顔中擦り傷や青痣だらけにし、鼻から下には乾いて赤黒くなった血を張り付けた状態の真田を見て、荒垣は自室の壁に背を預けたままそう呟いた
「四対一だ。でも、ちゃんと勝ったぞ」
「そういう問題じゃねぇよ」
流し読みしていた雑誌を床に放り、部屋の入り口で仁王立ちをしている真田にノロノロと近付く
「鼻血くらい拭けよな…ったく」
洗面台のぬるま湯で濡らしたタオルを手に取りガシガシと乱暴に拭ってやれば、ペンキのように赤い血がポロポロと落ちた

「絆創膏貸してくれシンジ。あと着替えも。このままじゃ帰れない」
「だろうな。おばさん卒倒すんぞ」
タオルの下からもがもがと訴える真田に、荒垣は苦笑混じりに答える
「喧嘩すんなとは言わねぇがよ、いちいち売られたもん片っ端から買ってたらキリねぇだろ」
特にお前男ウケ悪いからな、と続ける荒垣に、真田はむぅと唸った
「逃げるのは嫌だ」
「別に逃げる訳じゃねぇよ、相手にしねぇだけで」
綺麗に血の拭き取られた顔を軽く小突く

真田の持つ異常なまでの闘争心は、荒垣にとって厄介な事この上ないものだった
“強くなりたい”という一心でひたすら前に進む真田には、喧嘩だろうが何だろうが自ら背を向けるという選択肢が無い
その負けん気故余計な面倒事を起こし、結果、荒垣が尻拭いをさせられた事は一度や二度や三度どころではなかった

「…ま、俺にゃ関係ねぇけど」
口ではそう言いつつ、毎回世話を焼いてしまうのも、また昔から変わらない事だった

備え付けのクローゼットから制服のシャツを取り出し、未だ不満げな表情をしている真田に向かって放り投げる
「ちゃんと洗って返せよ」
「ああ」
投げられたシャツを受け取ると、真田はその場で土と血で汚れ、あちこち解れた自分の衣類を脱ぎ捨てた
「あ!馬鹿てめっ、砂落ちんだろうが!」
急な動作に止める間もなく、無惨にも先日ワックスをかけたばかりのフローリングの床は、シャツから飛び散った砂まみれになってしまった

「……悪い」
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