小噺・弐

□大人明彦物語A
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一階下でそんな騒ぎが起きている中、二階の荒垣の部屋では未だに状況を把握できていない(大人)真田が、ぽかんとした表情で寝台に腰掛けている
「よく分からないが…つまりあの薬の所為で、俺は10年後の姿になったのか?」
「そうだよ…ったく、本当に手癖の悪いガキだなお前は…」
心底うんざりといった様子で窓辺にもたれ掛かり、荒垣はため息混じりに答えた
「ふむ…通りで節々が軋むと思った訳だ。声も変な感じだしな…」
ん、ん、と喉を鳴らしながら、以前よりもトーンの低くなった声で呟く
少年期のよく通るさらりとした声は掠れの混じった大人のものへと変わり、耳に馴れ親しまない音色に何とも落ち着かない気分になる
“ガキ”と呼んだ傍から今の自分よりも遥かに年上の姿をしている真田に、荒垣は何故か苛立ちを感じた

「あぁ、それに…」
ふと、何かに気付いたかの様に立ち上がり、鼻先がぶつかりそうになる距離までずい、と近寄る
反射で軽く身を引いた荒垣の目線は、真田よりも僅かに下だった
「背も、シンジより少し高い」
「………」

――(イラッ)

眼前で勝ち誇った様な笑みを浮かべる男に、無性に腹が立った

「……アキ」
おもむろに名前を呼び、荒垣が真田の白いうなじに腕を回す
長い睫毛で綺麗に縁取られた瞳が訝し気に二、三度、瞬いた
目を閉じ、深く息を吐き…


――ゴッッ!!!!


思い切り、頭突きを食らわした

「……〜っ!?」
目の前で火花が散った様な感覚に、声もなく真田がうずくまる
「調子乗んな、馬ー鹿」
訳も分からず涙目で見上げてくる相手に、勝ち誇った笑みを見せた
「な…何するんだシンジ!」
「俺だって、今のお前位の歳になりゃもっと伸びてるっつの」
自らの額には全く痛みを帯びていない様子に不満気に唇を尖らせながら、「そんなの分からないだろう」と呟く真田は、荒垣の良く見知った幼い表情をしていた

我ながら、ほとほと勝手な感情だとは思うけれども

並べる肩は、目の前の片割れよりも常に高くありたかった





「…ぅおっふぅ……も、貰って来ましたよ中和剤…劇薬三本一気飲みして……あー…世界がメタリックブルーに染まって見えるぅ〜…」
「自業自得だ」

一時間後、天月が命を賭けて手に入れた薬により、騒ぎは幕を閉じたという――


End.


*ラストで中途半端にシリアスが入ってしまいました
初めは荒垣先輩がブチ切れて「力は俺の方がまだ上だ」的にベッドに押し倒しあ〜れ〜おたわむれを〜な展開にしようかと思ったのですが(むしろそっちの方が面白そうですが)
ちょっと待てこれは裏駄文じゃないだろ!ということで何ともこっ恥ずかしいオチになりました
…しかしよくよく考えると、このネタかなり地雷原ギリギリを走ってますね
そして私は早く順チドデート話を打って、悲惨街道まっしぐらな順平を何とかしたらなあかんと思いました
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