家宝(頂き物文)

□Attracted status!
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最近、ヒートが大人しい。
一人で勝手に行動することはなくなったし、身体が変わってから皆があまりにも彼、否、彼女のことを気にかけるためか、最近ではヒートが何処かへ行こうとするとトライブの構成員達がこぞって「お供します!」や「私も一緒に!」と言い募り、ヒートの周りには大抵2、3人は付いて回るようになってしまった。
一人にするなと言い出したのは俺だけど、おかげで最近はろくにヒートと話した覚えがない。…先日のことがあったからか、ヒートの方でもこちらを避けているような態度をとっているような気がする。
そう思えば思う程、胸のあたりにはタールのようにどす黒い、どろりとした感情が溜まっていくような錯覚がした。ヒートのことを考える度に胸は痛むし、ヒートが他の隊員と話しているのを見ると微笑ましいと思う反面、じわじわと身体の奥の方から熱くなっていくような衝動を感じる。
まるで発作のようだからと、パナシーアを飲んでみたが効きやしない。
この感情が分からずどうしようか悩んでいた所、ふと思い出したことがあった。


この間、メリーベルの縄張りで俺の方に駆け寄って来た元メリーベル構成員が俺に一生ついて行くと言ってたときに、アルジラは不機嫌そうにしており、その様子を見てセラは「ヤキモチを妬いている」と言っていたのだ。後にどういうものなのかと聞いてみたところ、それは好きだからしてしまう行動なのだとセラは楽しげに説明してくれた。気に入っている人間が他の奴に取られるのが気に食わない。だからその気に入った人間にヤキモチ、とやらをやく。
単純ではあるが、前まではそれを理解することは難しかっただろう。けれど今は違う。その感情と全く同じ状況に置かれているから、何となくわかるのだ。
だとしたら今、俺の中にあるこの感情は。











「…なんだよ、急に呼び出して」

用があるなら早く言え、といつものように仏頂面で言うのは、数日前から女性になり、今やその生活にも慣れ始めてきた彼女ーーヒートである。今はサーフに呼び出され、彼の部屋の壁にもたれかかっていた。
彼女のスタイルは性別が変わる前と同じマントを羽織り、その下にトライブスーツという格好ではあったが、女性態では前まで着ていた服もサイズが合わずに現在はマントを現在の身長に合わせ少々小さめのものに替え、アルジラや他の隊員がどこからか調達して来た前開きのトライブスーツとミニスカートを着用している。ミニスカートは下にスパッツを履いているからさほど気にしてはいないようだ。上半身の方は胸が強調され、肌が覗くスタイルになったのは主にアルジラが担当したというのもあるが、セラのでは胸が窮屈なのだと申し訳なさそうにヒート本人が言ったためである。
…でもその服だとうっかりすると見えそうだな、胸が。と邪な考えが浮かんだが、それを彼女に知られたら顔を真っ赤にして帰られてしまうのでひとまず置いておく。

「ヒート、単刀直入に聞く。
…お前が俺を避ける理由はなんだ?改善が必要なら遠慮なく言って欲しい」

「……は?」

唐突にそう言われ、口をぽかんと開けて惚けた表情をするヒートはとても可愛らしい、と素直にそう思ったサーフは固まったままのヒートをしばらく見つめた。立ち直ったヒートは、その視線に気づいたのかふいっと顔を背け、そのまま話し出した。

「別に避けてなんてない…。サーフの、気のせいだろ」

「本当か?」

念押し、と言うように語尾に力を込めサーフは問い詰める。整ったその顔に真顔と開いた身長差による威圧感では、流石のヒートでも怯み、観念したかのように呻いた。サーフの頭一つ分以上は背が縮んだ彼女に、大人気なくそんなことをして罪悪感が残らなくもないが、(自分の中では)非常事態なため見逃して欲しいと思う。

すると、なぜかヒートは居心地が悪そうにそわそわし始める。その様子にサーフが頭に疑問符を浮かばせると、ヒートは大きく舌打ちをした。そしてそっぽを向くのをやめ、大股でサーフのおよそ30センチ辺りのところまで距離を詰め、



「…っお前のせいだ!!」

と叫び、人差し指をサーフに突きつけ、キッと眉を吊り上げた。顔も赤くなり、さらに彼女の赤い瞳には、怒りとも悲哀とも似つかない感情が見え隠れしてた。驚いたサーフに目もくれず、さらにヒートは言葉を続ける。

「お前と一緒にいると、落ちつかねぇんだよ!お前を見てるとなんか、心臓が痛くて苦しい…けど、見てたいって思うし、その、お前がアルジラとかと喋ってるの見るとーームカついてくるんだよ!」

そう一息で言い切った途端、ヒートはハッと我に返ったようにピタリと止まってから、さっきまで赤くなっていた顔をサッと青褪めさせた。とんでもないことを口にしてしまった、そう言いたげに狼狽し始めるヒートにサーフはというとーー


(…ヒートも俺と同じだったのか)

叫び出したいくらいの想像以上に嬉しいことを言われ、いつもの冷静さが吹っ飛んだように破顔していた。ボスの破顔なんてトライブのメンバー達に目撃されたなら、何かあったのか、やれ腹が空いて気でも狂ったか、など散々なことを言われることだろうと思うが、この時に見ていたのはヒートだけで、しかもその目線はサーフから外され、足下の方へ向けられていたためその心配はなさそうである。
ひとしきりその事実に酔いしれたサーフは、俯いたままのヒートを引き寄せて自分の胸の所にぽすっ、と収めた。

「サーフ、!」

「俺も同じ気持ちだ、ヒート」

見上げてくる彼女にそう言うと、ヒートは驚いたように目を見開いた。くるくると表情が変わる彼女はやはり可愛らしく愛おしいーーそう、他の奴になんて渡せるものか。サーフはそう思ったのだ。

「お前が他のやつと喋ってるの見てると、イライラした。だって俺の隣には、ヒート居るものだろう?なんで、って。」

言っている間にヒートと目が合い、その見開かれた目に、サーフは笑いかける。
直後、ヒートからはぼんっという音がしなかったのが不思議ではないかというくらい、一瞬にして顔を赤く染めた。その様子に微笑ましさを感じつつ、サーフは最後の一押しとばかりに言う。

「だからヒート。お前は俺の隣にいてくれ。
…いや、違うな。お前は、俺の隣にいないといけないんだ。…そうだろう、ヒート?」

サーフがそう言うと、見上げていたヒートは真っ赤な顔を隠すようにサーフの胸へと顔を埋めてしまった。サーフはその様子を見て可愛いなあ、とついついまた笑ってしまう。
今のサーフの気持ちを表すなら、この上なく幸せ、と言うべきであろう。

そうしてヒートは顔を埋めていたが、しばらくして意を決したようにまた顔を上げる。

「…俺、元に戻ったら男だぞ?いいのか?」

「何度も言ってるだろ。ヒート、お前がいいんだ」

「…元が男だから女らしくも、可愛げなんかもねーぞ」

「ヒートはそのままでも可愛いから問題ない」

「おまっ…!…あと俺、今言っててわかったけど嫉妬深いし、セラのことはやっぱり気になるんだぞ?それでいいのか?」

「それでもいい。俺は、ヒートを不安にさせないように頑張るから。でも、俺といる時には、他の奴の名前を極力出さないでほしいな」

何しでかすか分からないから、という黒い私念の言葉は飲み込んでヒートの方を見つめると、満足気に赤い髪を揺らして彼女にしてみれば珍しい、上機嫌とも言うべきであろう表情を浮かべていた。



「…じゃあサーフ。お前を、信じてやるよ」



そう言ったヒートは、サーフの首の後ろに腕を回した。
それに続いて、足りない身長を補うようにつま先で背伸びをしーー自分への誓いを立てたその唇に、触れるだけの柔らかなキスをした。



「…はは、変な顔!」

突然のヒートの行動に反応できずに間の抜けた顔をするサーフに向かって、してやったり、とヒートは楽しそうに笑うのだった。









end

...To be countinue?


Attracted status!:魅力的な状態
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