小噺

□Good morning
1ページ/1ページ


冷蔵庫の扉を開け、半分ほどに減った1リットル入の牛乳パックを取り出す

消費期限は…よしよし、まだいける

買い置きしていたシリアルをガラスのボウルに開けて、少し多めにその牛乳をかける

そして小さい頃からの習慣、食べる前の挨拶
軽く手を合わせて…

「いただきまーす」

午前6時――他人よりちょっと早い私の朝は、一杯のシリアルから始まる


……つっても、さすがに毎日毎日同じものだと飽きるなー
色々種類や味を変えてみても、所詮シリアルはシリアルだし
だからって、朝からパンやらご飯やらなんてのは喉通らないんだよね……抜くのは太るから嫌だし

…なんてことをぼんやり考えながらもくもくとシリアルを食べていると、二階から人が降りてくる気配がした

誰だろ、順平はまず無いよね…あいつ見た目通りズボラだからいつもギリギリに起きて来るし
リーダー…も今日は部活の朝練だから先に出てるはず
風花か桐条先輩かな…先輩だったらちょっと気まずいな…(失礼だとは思うけど、やっぱり苦手な物は苦手だわ、うん)

「…早ぇな」

とか言ってる内に降りてきたのは、予想外の人物だった
「わ…荒垣先輩、おはようございます」
「おぅ」
驚き半分に挨拶をすれば、返事をしつつのそのそとキッチンに入って行く先輩
めっずらし…私朝に荒垣先輩と顔合わせたの初めてだよ
アイギス経由のコロマル曰く、いつも昼過ぎ頃に起きてくるらしいのに
早ぇな…ってそっちこそ早いなっての
「おい、岳羽」
「ぅわはいぃ!?」
やば、心の声聞こえた?…んな訳ないか
「お前、朝飯そんだけか?」
「あ…はい、そうですけど」
「…果物も食え。十代の女がシリアルだけじゃ、ビタミン不足だし腹持ちもしねぇぞ」
そう言って共用冷蔵庫からオレンジを取り出し、慣れた手付きでスルスルと皮を剥き始めた
急な展開にぼけーっとしていると、あっという間にきれいに皮を剥かれて、ご丁寧にカットまでされたオレンジがお皿に盛って目の前に出される
「ほらよ」
「…?…わ、わ!?あ、ありがとうございます!」
食え、と言わんばかりにずずいと皿を押し出され、ようやく理解して、同時にテンパった
うわー、何この展開!前に風花と『荒垣先輩って見た目によらず結構優しい人だよね』って話はしてたけど!ここまで面倒見いい人だったの!?
うーん…何か意外…そして照れる…(近所で怖いと評判のおじさんが、お菓子をくれた感覚に近いわ…あ、荒垣先輩はイッコ上なだけだからこの例えは失礼か)
「…頂きまーす」
はぐ、とオレンジを一切れかじれば、甘酸っぱい果汁が口いっぱいに広がった
「ん…美味しいです!」
「そうか」
ラックの新聞を取り、コーヒーを入れながら荒垣先輩が短く答える
…やっぱりこの人、高校生に見えないわ(近所で怖いと評判の…が物凄くしっくりくる!)
「荒垣先輩、今日は早いんですね」
「たまたま目が覚めた」
思い切って聞いて見れば言葉少なにも会話は続いて、ほんのちょっとだけ空気が和んだ
ちらり、と時計を見れば6時30分
…そろそろ誰か起きてくるかな?
風花が来ればもっと和むだろうなーなんて思っていたら、寮の玄関がガチャリと開く音がした
…と同時に、荒垣先輩の肩がぴくりと動く

「あ、真田先輩。おはよーございます」
「よう岳羽。早いな」
ロードワークから帰って来た真田先輩が、真っ直ぐキッチンに向かって行く
その途中で荒垣先輩に気付いたのか、少し驚いた顔で「何だ、お前も起きてたのか」と言った
ああ、やっぱ珍しいもんなんだ…荒垣先輩の早起き
「悪ぃかよ」
うわ、何だか先輩不機嫌そう
この二人、仲良いんだか悪いんだか、未だによく分かんないわ
ちょっと時間が早いけど、もう出ようかな…――

「だってお前、今朝呼んでも叩いても起きなかったじゃないか。ベッドから抜け出すの苦労したんだぞ」

――…ん!?

「ばっ…!テメ、そんなこと人前で言うんじゃねぇよ!」
「?」
なんで?とでも言いたげに首をかしげる真田先輩と、明らかに焦った様子の荒垣先輩

…これは…まさか…

…あ、真田先輩…首筋に赤い点々が…
………
………
あー…あーあー、うん…なるほどね…

食べ終わったシリアルとオレンジの皿を重ねて片し、私はさっさと寮を出ていった

…その前に、食べ終わった後の挨拶

「ごちそーさま」

End.


*ゆかりが不憫でならない気もしますが、こんな勝手にしやがれ的な荒真が大好きなのです

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ