小噺

□皆で祝おう荒垣誕!
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その日、自宅からいつもの様に路地裏の溜まり場へと出掛けようとした荒垣は、錆びたドアノブに手を掛けた瞬間ぴたりとその動きを止めた


――何か、外に居る…!

常日頃から廃れた精神の若者がたむろする場で過ごすだけあり、荒垣の気配に対する察知力はなかなかのものである
そういった修羅場をくぐり抜けて来た者ならではの勘や、虫の知らせといった曖昧な物、果てはセブンセンシズだとかいう第六感を越えた存在まで――とにかく荒垣の中のありとあらゆる物が、全力をかけてこの扉の先にある物の危険性を訴えかけていた

何だか分からないけど、とりあえずヤバい
…開けたらヤバい!

未だノブを握ったままどうすべきか思案している荒垣の耳に、ドアの向こう側から扉を引っ掻く甲高い金属音が響いてくる

(ギキィィィイ……)

「―――!?」

「…開けてよ〜…開けてよぉ〜…」

続いて聞こえてくる地の底から響くような声…
突然襲いかかった非現実的な現象に、荒垣の背筋が凍り付く――様に思えたが

「……何やってんだテメェ」

聞き覚えのある声に、一気に緊張感が抜けた

「どうも、お久しぶりですー。『あなたの心にいつでもマーラ☆』ダメージを受けた際の石田声がエロイと評判のベビーフェイスリーダー・天月です。…開けてよ〜」
「前置き長ぇ!開けてよじゃねぇよ、気持ち悪ぃ訪問しやがって…何の真似だ!っつーか何で此処知ってんだ!」
嫌な気配の正体に脱力しつつも、油断は出来ない
ノブをしっかり握ったまま、荒垣は扉の向こうへ問いかける
「真田先輩に聞いたら地図付きで教えてくれましたよ。『荒垣先輩の家教えてくれるかなー?』『いいともー!』なノリで」
何でタ●さん!?と内心突っ込む荒垣だったが、天月は構わず話を続けた
「そんな訳でちょっと先輩に用があって来ました。とりあえず中に入れて下さい、ってゆーか開けてよ〜」(ギキィィィイ…)
「るっせぇなキーキー引っ掻くんじゃねぇ!近所迷惑だろうが!何で無駄にホラー風なんだ!」
再びドアを掻きながら呼び掛ける天月に、それこそ近所迷惑な声で怒鳴り付ける荒垣
「いや〜、この前ものっそ怖いホラーゲームの動画を見て、ちびりかけたんですよー。あとついでに言うと、荒垣先輩が昔『リン●゛』を見て以来、一週間は真田先輩に連れション迫ってたとか言うことも聞いたので…ブプーッ(笑)」
「あんっの野郎…っ!いらねぇことをベラベラと…!」
怒りと羞恥に震える中、さりげなく荒垣以上に恥ずかしい事(失禁未遂)をしている天月だが、自分のことは見事に棚に上げている
「まぁそんな事はおいといて、いい加減開けて下さいよー。いつまでそうやって引き籠ってるつもりですかニート先輩〜じゃなかったニット帽先輩〜」
「お前今の絶対わざとだろ…誰がテメェの誘いなんかに乗るか。どうせロクでもねぇ事に決まってんだろ。アホやってねぇで帰れ」
もう今日の外出は止めにしよう、と施錠をして荒垣がドアから離れようとした時…

「…あー!あんな所で真田先輩が世界の強豪キックボクサー達に囲まれて、路地裏に連れ込まれた挙げ句押し寄せる筋肉の集団に抗うことも出来ず、あんなことやらそんなことにー!!」
「アキィィィイ!!??」
バーーン!!と突き破る様な勢いでドアを開けた荒垣の視界に映った物は、天月のしてやったりな笑顔だった

しまった、と思った瞬間には時既に遅し――

「まんまと引っ掛かりましたね荒垣先輩!でもそんなアキバカなあなたが好き!カモーン、アリスちゃーん!」

“死んでくれる?”

不敵な笑みを浮かべ天月が召喚器から撃ち出した金髪碧眼の異国の少女と、空から降ってくるトランプ兵を最後に視界に収め、荒垣の意識は途絶えた…――
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