小噺

□フリーダムSANADA
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夏の陽射しも眩い日曜の昼下がり、平穏な寮のラウンジから突如岳羽の怒声が響き渡った

「マジありえないんだけど!ホントありえないんだけど!!ってゆーかありえなくなくない!?」
「ゆ、ゆかりちゃん落ち着いて…何言ってるのかさっぱり分からないから…」
空になったジュースの缶をへこむまで握り締め、わなわなと震える岳羽を山岸がソファーから立ち上がってなだめる
「ありえるの?ないの?どっちなのそれ」
「だからありえないってのよっ!!」
ぼけーっとソファーに座って尋ねるリーダー天月に、激昂したまま答える岳羽
どうやら相当気分を害する事があったらしい
「ゆかりちゃん、とりあえず座って…何があったか聞かせてくれる?」
山岸のさやさやとした癒し系声に少し落ち着いたのか、空いているソファーにぽすんと座って岳羽は経緯を話し出した

「これ…二人とも知ってる?」
手に持っていた空き缶(手形にへこんでいる)を差し出し、ラベルを見せる
「あ……これって超期間・超地区・超数量限定の新商品!幻とも言われている『おでんジュース《本場名古屋みそおでん味》』!?」
「風花詳しいね……え?っていうかちょっと待ってこれ…スチール缶…?」
山岸が異様な食い付きを見せる中、車に轢かれたかの様にベコベコに潰された空き缶を見て若干青ざめる天月
「部活の後輩の子がね、こういうの好きらしくって…試合前、練習に付き合ったお礼にって一本くれたのよ」
「ゆかりちゃん、女の子に優しいもんね」
「ゆかり、女の子だけには優しいもんね…アウチ!」(弁慶を蹴り上げられた)
「すぐに飲むのも勿体無いし、共用冷蔵庫に入れてとっておいたんだけど……けど!!」
メキョッと音を立てて、右手のスチール缶が完全に圧縮された
(怖っ!)
「けど…どうしたの?」
半歩引いた天月と、先を不安気に促す山岸
すぅ、と息を吸ってから岳羽が叫んだ

「真田先輩に飲まれたの!!勝手に!!もーホント信じらんないー!!」

ラウンジに響く怒鳴り声に、あちゃー…といった表情を浮かべ、二人は寮内、いや学園内、いやいや下手をすれば国内一空気の読めないであろう男、真田明彦に対し重いため息をついた
「真田先輩、またやっちゃったんだ…」
「確かこの前、桐条先輩のお気に入りのケーキを勝手に食べて、それはそれは凄い事になったばかりじゃなかったっけ?」
天月の言葉に先週の事を思い出した山岸は赤面し(何があったかは不明)、岳羽は横に圧縮したスチール缶を今度は縦に圧縮することで、やり場のない怒りを晴らしていた(すっかり只の金属の塊と化した空き缶)

「そりゃ、皆が使う共用冷蔵庫に名前も書かず置いてた私も私だけどさ…要はその後の反応よ反応!“ん?ああ、これ岳羽のだったのか?すまんすまん。よし、詫びに俺の特製プロテインドリンクを分けてやろう!低カロリー高タンパクでダイエットにもいいぞ!はは!”って…余計なお世話だっつーの!!そんなに私はデブって見えるかー!?」
ダン!とテーブルを叩き悔し涙を浮かべる岳羽に、山岸が「そ、そんなことないよ!ゆかりちゃん細いし胸も大っきいし、凄く羨ましいと思う!」と少しズレたフォローを入れていた
「まぁ一応謝ってはいるけど…にしても酷いなぁ真田先輩…何が酷いって、その他人の物と自分の物の区別がつかない真田イズムが酷い……病気?」
リーダーも結構酷い…と山岸がそっと心の中で思っていると(控え目)、空気を変えるようにポン、と手を打ち天月がソファーから立ち上がる
「よし!もう真田先輩のことは『しょうがないよ、真田先輩だもの』で済ますことにしよう!」
「投げやり!!ってゆーかそれ何の解決にもなってないし!」
天月の投げ出し発言に条件反射で突っ込むが、かくいう岳羽自身も心の中では『まぁどうしようもないよね、真田先輩だし…』と半ば諦めていた(後輩たちからそんな風に思われている真田明彦18歳)

「そうだ。変わりにって言ったら何だけどさ、今朝交番に寄った帰りにポロニアンモールで今流行りのシュークリーム買って来たんだ。よかったら三人で食べない?」
「え?ホント!?食べる食べる!やった、さっすがリーダー!」
甘い物と聞いた途端、ぱぁっと表情を明るくした岳羽に思わず笑みが浮かび、山岸も嬉しそうに尋ね返した
「私も貰っていいの?」
「勿論。俺もゆかりと同じで女の子には優しいから……オウチ!」(臀部を蹴り上げられた)
「じゃあ私たちはお茶でも用意しよっか?」
「そ…そうだね…」
再び戻った平穏(?)な空気の中、三人揃ってキッチンへと向かったその時――事態は再び一変した
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