小噺

□犬彦物語B
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桐条が真田(犬)を連れ去ってから、かれこれ小一時間が経とうとしていた

その頃ラウンジでは…

「だーー!!もう、何でお前ら俺の手前になってリバースやらスキップばっか出すんだよ!俺一枚も減ってねぇじゃん!イジメ!?」
「何言ってんの。あんたにカード運がないだけでしょ…はい、ドロフォー。黄色ね」
「Noオオォォォッ!!」

メンバーこぞって真田の治療法を考え……ることもなく、いつの間にかウノに熱中していた(主に伊織がカモになっている)

「そういえば桐条先輩遅いね…さっきまでドアの中からドッタンバッタン、ビシバシ音がしてたけど…」
今は静まり返っている裏口のドアを見やりながら、天月は残り一枚となるカードを場に出した
「はい、上がり〜」

バターン!!

空になった両手をひらひらと振った時、蹴り開けられたかのような(というか蹴り開けられた)勢いでドアが開く

「…待たせたな」
メンバーが驚きの形相をする中、フッ…と高貴な微笑を浮かべて颯爽と表れた桐条
その後ろには、先刻までの腑抜けた面からは想像も付かない程のきびきびとした足取りで真田が着き歩いて来た
ラウンジのソファーまで辿り着いたと同時に桐条の半歩右斜め後ろでぴっと胸を張り、まるでSPのように佇んでいる

「お、おぉー…何か分からないけど、見た感じ凄いお利口さんになってる気がする…」
あまりの変貌振りに伊織が感嘆の声を上げると、桐条が肩の髪を払いながら言ってのけた
「桐条の屋敷の番犬は殆ど私が躾たようなものだからな。この程度の駄犬、基本の躾など造作もないさ」
昔からの仲間を駄犬って…と後輩達が引いている中、荒垣は利口になった真田(犬)をまるで別の生き物を見るような目で眺めている
(利口な真田は真田じゃないとでも言いたげな目だ)
「おい、桐条…躾ってどんな事吹き込んだんだよ。あんま元に戻った時ややこしくなるようなもんは…」
「その点についてはノープロブレムだ。まぁ見ていろ」
不安気な荒垣の言葉を遮り、くるりと真田(犬)の方に振り返ると、桐条は軍隊施設の長官のような声を張り上げた

「犬彦!」
「犬彦!?」
桐条の真田(犬)の呼び方に、すかさずツッコむ全メンバー
「犬になった明彦だから犬彦だ」とそのまんまな説明を返し、桐条は真田(犬)と向き合う
そしておもむろに右手を差し出し
「お手!」
…と叫んだ

「わん!」
桐条の号令に反応し、真田(犬)の左手がたしっ、と乗せられる

「……!!??」
あまりの光景に目を引ん剥くメンバー達
その間にも桐条の号令は続いていく

「おかわり!」
「わん!(たしっ)」
「伏せ!」
「わん!(さっ)」
「バーン!(指鉄砲で撃つ真似)」
「わうぅ〜ん(ころん、と服従のポーズ)」

ブーーーッッ!!!!(バターン)

「どわーー!?荒垣先輩が鼻血噴いて倒れたーー!!」
「あまりのわんこっぷりに萌え死んでる!!」
「だ、誰か…荒垣先輩にパトラかメパトラを!」
「いや…、効かないと思うけど…」
「今にも“これでいい…”と言い出しそうな程、満ち足りた表情であります。ね、コロマルさん」
「ワンッ!」
「どうだ、大したものだろう?」
騒ぎ立てる後輩達をどう勘違いしたのか、満足そうに見回す桐条

「えーと…どの辺がノープロブレムなのか、お伺いしたいです」
「聞き分けが良くなった(即答)」
身も蓋もない返答にあー……と反応するしかない後輩達(数々の真田暴走伝説が脳裏に蘇っている)
そこへ鼻を押さえながら起き出した荒垣が、真田(犬)を見やり言い放つ
「だからって犬仕様に躾てどうすんだよ…こんなアキ見たらあいつの両親泣くぞ」
「荒垣先輩、指の隙間から血ぃ垂れてますよ」
「………」
「あ、あの…よかったらどうぞ…」
そ…っとポケットティッシュを差し出す山岸と受け取る荒垣
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