小噺

□犬彦物語A
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「つまりあれですか、階段の一番上から下まで落っこちた衝撃で、真田先輩が犬になったと…?」

荒垣が目覚めた真田を連れ寮に戻った後、すぐに全員が真田の異変に気付き(扉をくぐるなり“わん”と言った為)、ラウンジにて緊急会議が開かれた

きょろきょろと辺りを見回す真田を不憫気に見つめ、リーダーの天月が尋ねる
「…大丈夫ですか荒垣先輩?」
「何で俺が大丈夫かなんだよ!どう見てもこいつが大丈夫かだろ!?」
肩に鼻先を押し付け匂いを嗅いでくる真田を小突きながら指差し、荒垣が怒鳴った
「いや…てっきり荒垣先輩の動物好きが変な方向に悪化して、真田先輩にまでわんこプレイを求めるようになったのか…カロットオォォォー!!」
荒垣の鉄拳と岳羽の膝蹴りが同時に炸裂し、天月の下卑た発言を遮る
「山岸…君のペルソナで何かわからないか?」
そんな中、桐条が冷静に状況を分析しようと尋ねるが、山岸は既に試してみたのか、首を小さく振って答えた
「すみません…ルキアの力じゃ、真田先輩の状態に特に異常は見られないんです…」
「風花のルキアでも駄目、か…本当にどうしちゃったんだろ真田先輩…」
岳羽が呟く横で、伊織が思い付いた、とばかりに身を乗り出す
「なぁ、ひょっとしてあれじゃね?漫画とかでよくある、ぶつかった拍子に人格が入れ替わっちゃった〜、ってやつ!」
「……………………馬鹿じゃないの?」
「お…思いっきりためてから言うなよ…冗談だって…」
岳羽の容赦ない痛烈な返しに、見るからにへこむ伊織
「見た感じ、コロマルに変わった様子はないけどね…」
コロマルの首周りの毛を撫でながら観察をしている天月だが、その意見も案外満更ではないかもしれない、と犬語翻訳機能搭載のアイギスに呼びかけた
「アイギス、コロマルは何て言ってる?」
ソファーにじっと座っていたアイギスは、天月の声に反応してコロマルの顔を覗き込む
「…天月さんは毛を撫でる手付きが下っ手クソだ、と言っているであります」
ぴた、と手を止める天月
「いや…そういう事じゃなくてね…」(地味に傷付いた)
「自分にもよく分からない。ただ、真田さんは自分を庇って階段から転がり落ちたので、打ち所が悪かったのは確かだ…とも言っているであります」
「あぁ…そう…」
コロマルの発言にショックを受けた天月を余所に、他のメンバーがすっかり犬化した真田に注目していた
「真田先輩、コロマルのこと庇ったんだ…だからこの子、怪我がなかったんだね」
岳羽の言葉にクゥン、と鼻を鳴らすコロマル

「…しんみりしてるとこ悪ぃんだがよ。そろそろこいつ何とかした方が良くねぇか?」
そんな中、真田(犬)にスリスリと懐かれまくっている荒垣がうんざりした口調で言った
(…しかし口調はうんざりでも、その口元は明らかに緩んでいる)
「ですね。こんなわんこ真田先輩を天田君に見せた日には、思春期の少年に一足早い目覚めが起きちゃいそうですし」
「何の!?」
伊織のツッコミと共に、クラスメイトとサッカーをしに行った天田がこの場に居ないことにメンバー全員が安堵した(純粋な少年の心に変なトラウマを与えずに済んだ)

「でも何とかするって言っても…どうすればいいのかな…?」
ちょこんと首をかしげる山岸に、桐条は思案するように口元に手を添え答える
「過去にある例では、こういった症状には同じ様なショックを与えるのが常套手段らしいがな」
「よっし、分かりました!ちょっくらベルベットルームに行ってサタンとルシファー降ろして来ますね!」
「待て!どんだけ強いショックを与える気だテメェは!?」
預金を下ろすような気軽さでポロニアンモールへと駆け出す天月の後頭部を、荒垣の手ががしりと掴んで止めた
「同じ様なって…また階段の上から下まで突き落とすのは危なくないですか?」
岳羽の意見にこくりと頷き同意する山岸だったが、桐条は「まぁ大丈夫だろう、明彦だからな」と何とも大雑把な返答をした
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