小噺

□犬彦物語@
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「よし、コロマル!基礎体力アップのトレーニング法その一、階段ダッシュ行くぞ!」
「ワン!」
でっけぇ声で叫びながら、一人と一匹が長鳴神社の階段を駆け上がって行く
…端から見たらアホ丸出しだな

「おーい、馬鹿アキー。あんま調子に乗ってっと落ちんぞー」
どうせ聞いちゃいねぇだろうが、一応忠告はしておくのが幼馴染みの役割ってもんだろ
まぁコロちゃんも全力で自分と遊んで貰える相手がいて嬉しそうだし(成犬の体力と張り合えるのなんて、この寮じゃあの馬鹿だけだ)、良しとするか
「誰が馬鹿だ!馬鹿と言った奴が馬鹿なんだぞシンジ!」
聞いちゃいねぇと思ったら聞こえてたのか、走るのをぴたりと止めて振り返ったアキが叫ぶ

するとそのすぐ後を付いて走っていたコロちゃんが(犬より早いってあいつどんだけ体力馬鹿なんだ)アキの丁度膝裏辺りに鼻先をぶつけてしまった
キャウン、と短い鳴き声を上げるコロちゃん(アキてめぇ後でぶっ飛ばす!)
そして、ほわぁ、と間抜けな声を出してアキの上半身がぐらりと揺らぐ

……おい、ちょっと待て
やばくねぇかこれ?

「お、おいアキ…!?」
なんとか片足でバランスを取ろうとしていたアキだが、ついにその上半身は完全に傾き、あろうことか真後ろに居たコロちゃんをも巻き込んで――
「う、わ、わぁぁああ!?」

――物凄い勢いで階段から転がり落ちてきた

「ア、アキー!?いや、それよりコロちゃ…!!てめ、アキ…コロ…うおおぉお!!!?(錯乱)」
何が何だが分からないまま、とにかく二匹(もうあいつは匹でいい)が落ちた場所に駆け付ける

近くに寄って見れば、結構な高さから落ちたのが分かった
「おい、アキ!生きてるか!?」
地面にうつ伏せで転がっているアキの横っ面を叩く
返事はなかったが、代わりにアキの体の下からコロちゃんがもぞもぞと這い出てきた
見たところ怪我は無いようで、心底ほっとする
「クゥーン…」
意識の無いアキの顔を必死に舐めているコロちゃん
くそっ、羨まし……じゃなくて 、不味いなこりゃ
落ちる最中に頭でも打ったかもしれねぇ
確かこういう時、下手に動かさない方がいいんだっけか?(さっき思い切りはたいちまったが)
「とにかく桐条に連絡しねぇと…コロ、アキを見ててくれよ?」
「ワンッ!」
威勢のいいコロちゃんの返事を聞いてから、近くの公衆電話に走って行った

連絡を入れてからすぐに、桐条が黒塗りのベンツに乗って長鳴神社まで迎えに来た(寮から徒歩15分くらいの距離を、だ)
気を失ったアキを病院まで運ぶとさっさと帰って行ったが、会うなり思いっきり怒鳴られたのは、まぁこの際置いておくことにする(お前が付いていながら云々、とかそんなのだ。まるっきりガキ扱いだなアキの奴)
検査の結果脳波に特に異常はなく、軽い瘤だけで済んだらしい(あんな場所から落ちて瘤だけっつーのは流石というか何というか…)

今はベッドで眠っているアキの横で、置いてあった雑誌をパラパラとめくりながら目が覚めるのを待つ
カーテンの隙間から温い風が吹き込んで、アキの短い前髪を撫でた

相変わらずでけーデコ…とかどうでもいい事を考えていると、瞼がぴくりと動く
「……?」
うっすらと目を開き、辺りの様子を見回すアキ
「やっと目ェ覚めたか…この馬鹿」
呆れながら言ってやれば、瞬きをしてこっちを見てくる
そして一言


「わんっ」


ゴシャッ、とパイプ椅子から滑り落ちる音が、俺たち以外に誰もいない病室で空しく響いた――

To be continued…

*やってしまった感がいっぱいありますね
真田先輩七変化シリーズ第一弾(また適当なことを…)
そして無駄に続いたりします

ツンデレな荒垣先輩の一人称打ちは難しいです
多分次回では元の形式か、会話のみに戻ると思います…

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