小噺

□七夕スペシャル後日談の前日談
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“絢爛豪華”といった表現がぴったりと当てはまるような、わざとらしいまでに金メッキで装飾されたシャワールーム

入り口に面する壁は半透明のガラス張りで、中の様子を直接的にではなく間接的に伝える役目を果たしている

湯気の中でおぼろ気に揺れるシルエットを外から眺めるだけで、此処に訪れる者たちはこれから始まる行為への期待に胸を膨らませるのだ

性に対する本能を刺激する、極彩色のピンクと紫で彩られた空間

ここは幾多の男女が互いを求め、感じ合うために訪れる場所――
白河通りにある、とある歓楽ホテルの一室だった



そして今シャワールームの中には、流れ出る水音とそれを浴びるほっそりとしたシルエットがある

ガラス越しにも分かる白い肌と柳腰
あまり勢いのない湯を全身で楽しむように、両手でひたりと体を撫でてゆく
ぱしゃりと跳ねる飛沫の音が、狭い個室の中でやけに響く

外から見られている、という羞恥からかややぎこちない動きではあるものの、その姿は十分官能的に映って見えた


――数分後、
ガチャリ、とノブが下がり、シャワールームの扉が開く
ほんのりと上気した肌をバスタオルで覆い、毛先からほたほたと水滴を垂らしながら歩き出す白い肢体

そしてその先、部屋の中央に据えられたキングサイズのベッドには、既にシャワーを終えた相手が濡れた髪もそのままに、首元のボタンのみを外して待ち構えていた
まるで獲物を見つけた豹のような挑戦的な瞳に、思わず身がすくむ

「……怖いか?」

心の内を読まれたかのような問いかけに、ふるふると首を振って答える

「…大丈夫…だ」

少し震えた声にくつりと笑い、今度は愛しむように優しげな声音で呼びかけた

「…早く来い」

すらりとした腕が差し出され、その先にある細長く綺麗な指に、自身の指を絡み合わせる
――と、同時に、くるりと視点が反転した

二人分の体重に、きしりとベッドのスプリングが揺れる
「……あ」
押さえつけられた肩から、確かな温もりを感じた
温かい手だ

目の前にある顔は、三年前から馴染みのあるものだった

しかし今その顔が浮かべている表情は、見たこともないほど艶めき立ち――それに自身の左胸が異常な速度で脈打つことを、否応なく実感した

は、と熱く短い息が漏れ出る
それを合図にするかのように、ゆっくりと、覆い被さった体が近付く
思わずきゅ、と瞳を閉じれば、安心させるかのように優しく頬を撫ぜる手

「怖がらなくていい、大丈夫だ……」

そして形の良い唇が、名前を紡いだ


「――…明彦」
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