小噺・弐

□伊織順平の青春
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――空って、何でこんなに青いんだろう
――太陽って、何でこんなに輝いているんだろう

――人生って…

何でこんなに素晴らしいんだろう!!


「あーもー、生きるのってたーのスィーー…ぐほっ!!!!」

毎度お馴染み、巖戸台分寮ラウンジにて

学校(ちゃんと行ってた)から戻って来た寮生が各々ソファーやキッチンテーブルで寛いでいる最中、終始ニヤニヤニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべていた伊織
遂には感極まって叫び出した所を、たまたま遅れて帰って来たリーダー・天月が、「でぇりゃああぁぁ!!」と雄叫びを上げながら地獄突きを入れ黙らせた

ドサリと床に崩れ落ちる伊織
その横で、何事もなかったかのように再び憩いの時間を過ごす寮生達であった…





―辰巳ポートアイランド・駅前広場にて―

『………』(カリカリカリカリ)
『――なぁなぁチドリ、それ、何描いてんの?』
『………』(カリカリカリカリ)
『馬?ラクダ?あ、何か芸人のワッ●ーにも似てんな!』
『………』(ビリビリビリビリ)
『って、ぇえ!?何で破んの、もったいねー!』
『あ……』
『おん?どしたの……あ、スケッチブックなくなっちまったのかー…』
『………』(シュン…)
『…な、なぁ、じゃあさ…一緒に買いに行かね?』
『え……?』
『新しいスケッチブック!今から…だと遅いから…明日!俺、丁度学校休みだしさ!な?どうよ?』
『………』
『…あー…駄目…かな…?』
『……いいよ』
『ぉう!?マ、マジで!!??よっしゃああぁぁぁー!!!!』





「えへ…えへへ……うふぉっ!!!!」
床の上で気絶したまま締まりのない笑みを浮かべていた伊織の腹を、通りすがりの岳羽が何の躊躇いもなく踏みつけた(合掌)


――その夜、ラウンジに集められた二年組一同

「――……ってな訳でさ〜、俺ッチ明日は用事あっから!ごめんなゆかりッチ!一緒に遊べなくて」
すっかり復活した伊織が、聞きもしていないのにベラベラと放課後の出来事を話し始めた

「…何この不快な生き物。殴っていい?ってか殴っていい?ってかむしろもう殴るわ」
「お、落ち着いてゆかりちゃん…」
辛抱たまらず拳を握り締め立ち上がった岳羽を、山岸が必死に抑えつける
「……で?わざわざエロい妄想で忙しい俺まで呼びつけて、一体何の用?」
ソファーの上でふてぶてしく座っている天月(妄想の邪魔をされて若干不機嫌)が、至極つまらなさそうに尋ねる
「忙しいのかそれ…?い、いや、実はよぅ…俺ッチ、こういった事初めてだからよぅ…どうすりゃいいか何か意見とか…」
「解散!!!!」
「早ッ!!??せめて話最後まで聞いてよ!!」
スタスタと立ち去ろうとした天月の腕にしがみつき、寸での所で引き留める伊織
「うるせー!リーダーは忙しいの!!お前のつまらんデートプランを考える位なら、いくちゃんのお見合い相手探してあげるっちゅーねん!」
「聞いてもいない内からつまらんって酷い!!しかもいくちゃんて誰だよ……はっ!?まさか幾月理事長!?」
「いくちゃんとは週3で電話する仲です」
「嘘ぉぉっ!!??」
「順平くん、順平くん…明日の事はいいの?」
脱線し始めた話題を山岸が戻すと、慌てて姿勢を正して表情を改めた
「そ、そうだった…じゃあよ、もう意見とかいいから…俺ッチの初デート、無事成功するように影から見守っててくんね…?」
「何気に意見求めるよりめんどいこと言い出したなコイツ…」
「必死ね、順平…」
手を組み上目遣いで懇願する伊織に、哀れな視線を向ける天月と岳羽
「だいたいお前、仮にチドリちゃんと上手くいったとして…その後はどうすんだよ?ずっと一緒に居るの?お前の頭じゃ大学なんて夢のまた夢だろ。そんで無理に進学するより、てっとり早く働いて金貯めようなんて安易な考えに突っ走ってろくな就職も出来ず、それでも“俺はやればできる”とか根拠のない自信と共に同居し始めたら、案の定チドリちゃんに食わしてもらう羽目になって、『大丈夫だってチドリ〜ン、俺ッチその内すっげービッグになっからよ〜テレッテテレッテ』とかズルズル居座る内に借金まみれになり、夜も更けた頃、風俗店勤めから帰って来たチドリちゃんが窓の外の月を見ながらポツリと一言、『順平…私、もう疲れたよ…』……うおぉぉおお順平テメェエエ!!」
「何だよその駄目過ぎる俺は!?そんでもって何でお前が勝手にキレてんだよ!?」
「順平、最っ低ー…」
「酷いよ順平くん…」
「ゆ、ゆかりッチに風花まで……ちくしょー!何だよお前ら、そんなに俺の事嫌いかよ!?もういいよ馬鹿ー!!!!」
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