小噺・弐

□はやとちりジェラシー
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物心付いた頃から傍に居て、同じ釜の飯食って、狭っ苦しい部屋の中、隣同士で寝て育って来たんだ
あの馬鹿の事なら大抵は分かる

――だけど

ノックもなく突然部屋に走り込んで
長い睫毛にじわりと涙の粒を溜めながら

「……シンジぃ……」

と、ズタズタに破れたシャツを握り締めながら言われた日には

どうしていいのか全く分からず、ただただ馬鹿の目の前で、馬鹿みたいにぽかんと呆けるしかなかった…――





『――お兄ちゃーん!シンジちゃーん!早く早くー!』
『ミキー、走ると危ないぞー!』
『おいアキ、お前もちゃんと足元見て歩けよ。転ぶぞ』
『平気だよシンジ、こんな何も無い所で……うわぁっ!?』
『おい、アキ!?…あーぁ、言わんこっちゃねぇ…』
『お兄ちゃん、大丈夫ー?』
『……ぅ゛っ……』
『どこか擦り剥いたのか?何?肘?』
『あー…ち、出てる…いたそー…』
『…うう゛っ…』
『馬鹿、男が泣くなって!こんなの、舐めてりゃ治るから!』
『…?そこで何でシンジちゃんがお兄ちゃんの肘持つの?』
『し、シンジ…?……ふわっ!や、やめてシンジ、くすぐったいよ…!』
『いいからじっとしてろ!…すぐ…終わっから…』
『だ、だって…!あ、シンジ、そこは…っ!』
『………』

『……やっぱお兄ちゃん達面白いわ』





「――いや、面白いとか面白くないとか!?」
「?…どうしたシンジ?」

あまりの衝撃に懐かしい過去へ飛んでいた俺が、はっ、と目を覚ませば、アキが入って来た時と同じ格好で不安気な表情をしていた

つまり、長い睫毛に涙の粒を溜めて、シャツは破けて、よくよく見ればあちこちに赤い痕がついてい…て…

………

「うわ、シンジ!起きたと思ったらまた気絶か!?しっかりしてくれ、おい!」
「何かもう…死にてぇ…」
「シンジー!?」

――アキの目覚めの一発(左ストレートともいう)を貰って何とか意識を取り戻し、改めて向かい合う
「で……何があったんだ?」
何故か床に正座の状態で座っているアキに、ややひきつり気味に聞いてみれば
「な…何も…」
と滑舌悪く呟くだけだった
何処からどう見ても何かあったのは確実だというのに
言えないでいるアキの様子に、また意識が飛びそうになるのを何とか堪える
「お前な…ンなナリして『何も』もねぇだろ!何だこの赤いの!?」
ぐい、と破れた襟首を掴んで露になった赤い痕を差せば、明らかに狼狽えた表情を浮かべるアキ
「こ、これはその…しもやけだ…」
「あぁ!?ナメてんのかお前!?このクソ暑い時期に、どうやったらしもやけになんだよ!!お前の着てるシャツは何だ!夏服だ!!」
「な…何でそんなに怒ってるんだシンジ…?!」
今にも泣きそうな表情で怯えるアキに、こっちまで泣きそうになる
というか、もう、泣きたい…

「そうか…言いたくねぇなら…いい…」
「シンジ?」
不思議そうな顔をしているアキを強く抱きすくめて、肩口に顔を埋める
一瞬、はっと息を呑む気配がしたが、もうそんなの構ってられなかった
「…卒業するまで、我慢しようと思ってたんだけどよ…」
「…は?」
「そうこうしてる内にまんまとどっかの誰かに取られたって訳か…ハハッ、とんだ笑い話だなおい?」
「し、シンジ…声が全然笑ってないぞ…?というか何を言って……んぅっ!?」
ごちゃごちゃと煩いアキの唇を塞いで、そのまま後ろに押し倒す
ガツン!と頭が床にぶつかる音がしたが、構わず口内に押し入り、舌を絡めて思い切り吸い上げた
「んーー!んぅーーー!!」
バン、バン、と床を叩いてギブアップをするかの様に訴えて来たが、此処はリングの上じゃない

止める審判も、守るルールもなかった
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