小噺・弐

□白い日って何ですか?
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時は現代、世はホワイトデー

一月前に女性や友人達からチョコレートを贈られた者達が、その想いの深い浅いに関係無く『三倍返し』という名の恐ろしい暗黙ルールによって散財を余儀なくされる、名前とは裏腹に何ともブルーなデーである
(そして全国の洋菓子関係取り扱い店では、バレンタイン後伸び悩んでいた売り上げを再び取り戻すチャンスデーでもある)

しかし此処、巌戸台分寮におわす「日本全国何処を探しても、こんなに空気と話の流れを読めない奴はこの人とガッ●石松くらいしかいないだろう」と後輩達をして言わしめる男――真田明彦にとっては、ホワイトデーだろうがブルーマンデーだろうが『エブリデー、ヤングライフ、ジュ・ネ・ス♪』だろうが全くもって知ったこっちゃなかった(P4ネタ含んですみません)――

「じゃあ行ってくる!」
午前中のみの授業が終わり、寮に帰宅するやいなや、さっさとトレーニングウェアに着替えて外へ走りに飛び出して行った真田の後ろ姿を見送り、荒垣と桐条はラウンジのソファーに向かい合う形で座っていた
「………」
「………」
互いに一言も発する事なく、終始無言のまま紅茶を飲んだり雑誌をめくったりしながら淡々と時間を過ごしている
しかし二人の周囲を包む空気は極限にまで張り詰めており、さながら巌流島で対決する時の武蔵と小次郎の様な剣気を全身から発していた
そのあまりの雰囲気にコロマルはおやすみハウスにじっと身を潜め、二階から『夢想花』を口ずさみながら降りてきたリーダー天月は一階の様子に気付くなり、ビデオの巻き戻しの様に後退りして自室に引き返して行ったという…(リーダーの出番、これで終わり)

「ただいま〜…うぉっ!?何スかこのめっちゃ張り詰めた空気!!」
「えー?何、どうしたの順ぺ…うわっ!!空気怖っ!!」
そんな時運悪く戻って来た伊織と岳羽が、場の険悪さに揃ってツッコミを入れた
「ん…?ああ、伊織に岳羽か。おかえり」
気付いた桐条が、かろうじて口元に微笑を浮かべながら挨拶をしてくる
「た…ただいま…デス」
全く笑っていない桐条の目元と、無言のままの荒垣の気迫に背筋が凍る思いがし、久しぶりに『そういえばこの人達ものっそ怖いんだった…!』と本編模様を思い出した二年ツッコミコンビ(一年以上間が空いて感覚が色々とマヒしていた)
「珍しいな、二人で外出とは…山岸はどうした?」
話を続けて来た桐条にビクーッ!と肩を震わせ、長官の詰問に応じる新米兵の如く気をつけの姿勢をとる
「え!?あ、いや…ホワイトデーのお返しに風花にナイショで何かあげようと思ったら、たまたま外でゆかりッチと会ったんス!」
「オフの時間まで順平と会うなんて正直胸クソ悪かったんですけど、しょうがなく一緒にお返しのプレゼント探してました!」
「そ、そこまで詳細に言うか!?」
伊織の心にダメージを与えつつ説明した岳羽の言葉に、桐条と荒垣がぴくりと肩を揺らした
「…そうか…ホワイトデーのお返し、か…」
「………」
あからさまに何かがあるとしか言い様のない二人の反応に、『え?何?何かマズイ事言った?』と心底震え上がる後輩達
「そういえば荒垣…お前、先月のバレンタインに明彦に何か贈ったそうだな。お返しはもう貰ったのか?」
まるでシャドウと対峙する時の様な鋭い目線で、向かいの荒垣に尋ねる桐条
「…あ?何もやってねぇし…。そっちこそ、先月辺りアキに何かやってたみてぇじゃねぇか。こんなとこで茶ぁシバいてる場合かよ?」
その視線と真っ向から向き合い揶喩返しする荒垣
「………」
ビュオオォォォ!!と吹き荒れるニブルヘイム級の寒風に、『ヒイイイィィ!!』と叫び出したくなった伊織と岳羽
今すぐここから逃げ出したい、誰か私を外の世界に連れてって!と少女漫画のヒロインの様な心境を味わいつつ、何故こんな状況になっているのか考察してみた所――
………
――三秒で答えが分かった

先月、二月十四日バレンタインデー前後に起こった大惨事(風花の爆発テロ、荒垣の鬱陶しいツンデレ発動、桐条のとんでもプレゼントetc.…詳しくは前々回更新のハッピーバレンタイン&日記内更新のミツアキ・DE・バレンタインリベンジにて)の最中、荒垣と桐条は各々なんらかの形で真田にプレゼントを贈っていた
そして一月たった今日、ホワイトデー
受け取った真田本人からはお返しの気配が全くもって見当たら無く、ヤキモキとした気持ちを抑えながら、それでも互いに抜け駆けを許すまいと牽制しあっているのだろう…
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