小噺・弐

□大人明彦物語@
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「なぁなぁ順平、これ何だと思う?」

一体いつ学校に行っているのか分からなくなる程、ラウンジでくつろいでいる事が多い巌戸台分寮生達

今日も今日とて、ソファーで携帯ゲーム(昔懐かしド●キーコング)にいそしんでいる伊織に、歩く少年犯罪・リーダー天月が声を掛けた
その手元には、怪しげに波打つ紫色の液体が入った小瓶が掲げられている
「あ〜…?何だよその、この上なく怪しげなモン」
煩悩にまみれながらも無駄に天才である天月の頭脳は、一般人には到底理解し難い行動ばかり起こしている
今回もそういった類いであろうか…と警戒する伊織
それを楽しげに見つめ、天月が飄々と答えた
「江戸川先生から貰ったんだー。『オトナになれる薬』だって」
「うっわ…またうっさんくせーの貰ったなオイ」
予想通り、ろくでもなさそうな代物である
「“天月君の、ちょっといいとこ見てみたい〜、あそれイッキ、イッキ”って音頭とられながらイッキ飲みした劇薬のご褒美。一瞬世界が玉虫色に染まったけど、それなりの物貰えたよ」
「体張るなぁ、お前…」
「『オトナになれる薬』だよ?そりゃ張るともさ。セクシャルリーダーたるもの、こんなオイシイアイテム逃せますかっての!」
飄々とした態度から一転、闘牛の如く鼻息荒く訴える天月
最早セクシャルでも何でもなく只の変質者である
「俺、時々お前に着いて行けねぇ時がある……で?どうすんだソレ」
「勿論、この学生寮におわす歩くセクシャルに飲ませます」
「お前ちょっとセクシャルセクシャル言い過ぎじゃね!?」
大体誰だよ歩くセクシャルって、と伊織が続けるよりも先に、天月が何処からともなく持ち出したアイソトニック飲料のペットボトル(飲みかけ)をテーブルの上にドンと置いた
「ここに俺が、二日前共用冷蔵庫からかっぱらった真田先輩の飲みかけのドリンクがある」
「何やってんだお前!!」
「この中に薬を入れて元に戻しておけば…アホの真田先輩の事だから、何の疑いもなくロードワーク上がりにイッキ飲みしてくれる筈!」
「あぁ何となく分かってたけど、やっぱ飲ます相手真田サンなのね!?っつーか明らかに色で分かるだろソレ!めっちゃ紫色ですやん!」
アホの真田先輩という暴言はスルーし、後半で何故か関西弁になりながら天月の無茶な計画に突っ込む伊織
「大体、そんなの飲まして本当に真田サンが大人になったらどうすんだよ!江戸川の作った薬と、このサイトだったらありえるぞ!?」
「結果オーライじゃないか」
「どの辺がオールライト!?」
「俺的にオールライトだからいいんだよ!…と、その前に…一応毒味しとくか」
そう言っておもむろにボトルのフタを開ける天月
「へぇ!?毒味って、まさか薬の……な訳ねぇよな!やっぱそっち(飲みかけドリンク)か!」
「真田先輩の飲みかけ…ハァハァ…あのさくらんぼの様な唇が触れたハァハァペットボトルハァハァ…!!」
「お、おぞましっ!!」
血走った目で飲み口を凝視する天月に、“ああ…こいつはもう駄目だ…”と絶望にも似た諦めを感じた伊織
転校したてのクールでちょっとミステリアスな雰囲気の彼は、一体何処に行ってしまったのだろうか…と、思いを馳せている内に、天月の唇が今まさに飲み口へと触れようとした――瞬間
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