裏物部屋

□そして星は地平線に消えた
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頭の中が一瞬空っぽになった
チカチカと白い光が明滅して、それから少し経ってから、空っぽの頭が真っ赤に染まった

“嫌な予感”
“虫の知らせ”
そういったものが実際にあることを、俺はこの時初めて知った





放課後、課題を提出してから教室に戻って、そこに居るはずのやつが居ないとき、先ず“それ”を感じた
鞄も掴まずに、教室を飛び出して走る

薄汚い体育倉庫
今はもう使われていないそこは入口に南京錠が掛けられ、その上から鎖をグルグルに巻き封鎖されている
だけど鎖はペンチで切られ、錆びた南京錠は叩かれ潰され外れていた
入口の扉は閉じられていたが、立て付けの悪いそれは間に1センチ程隙間が出来て、そこから漏れ出る嫌な音を俺に確かに伝えてくれた

汚い罵声
何かを殴る音
床に転がる音
枯れ果てそうな女の悲鳴

コンクリートが衝撃で壊れるんじゃないか、そんなことをつい思うような勢いで鉄扉を開ける
でかい音といきなり照らされた倉庫内に、一瞬全員の動きが止まった

お陰で俺はその場の様子をありありと見回すことができた

十人くらいだろうか、見た感じどれも高等部の男子生徒が、よってたかって一人の男に拳や足蹴をくれていた
そこから数歩離れた位置では、そいつらの連れらしい私服の男二人が、同じ中等部の女子を羽交い締めにしている
白いブラウスは第3ボタンの辺りまで破かれて、未発達の胸部を下着越しに晒していた
女はボロボロに泣いていたが、正直俺はあまりそっちに意識を向けてなかった
中央で殴り蹴られている人物
辺りに血反吐を撒き散らし、制服のシャツもズタズタになって床に転がっているのは


いる の は


「…シ…ンジ…?」

意識も朦朧とした状態で、俺と目が合い名前を呼ぶ

そんなアキを見た時、俺の中で何かが音を立ててぶち切れた

「…てめぇら…マジで殺す…っ!!」





それから後のことは、よく覚えてない
気付けば俺は手に血塗れの金属バットを握ったまま、肩で息を切らしていた
周りにはさっきの奴等が、呻き声を上げながら地べたに這いつくばっている
何人かはウンともスンとも言わずに倒れていた
殺してしまったかもしれない、でもそんなことどうだっていい
アキをこんな目に遇わした奴等だ、生かして置く価値なんて無い
そんなことをグルグル考えながら、手からずるりとバットを落とす
やけに甲高い音が響いて、思わず自分でも驚いててしまった

そうだ、アキ
アキは大丈夫だろうか

振り返って最初に目に入ったのは、恐怖でガタガタに震えている女だった
よくよく見れば、見覚えのある顔
アキが試合のとき、必ず最前列にまで押し入って応援している取り巻きの一人だ
他の騒がしい奴等と違って、どこか引っ込み思案な印象があり、返って目に付いた覚えがある

大方、アキをボコる盾がわりに利用されたんだろう

「おい…」
「いや…いやあぁぁあ!!」
一歩足を踏み出した途端、壊れたように悲鳴を上げ後退りする
来ないでとか助けてとか、そんなことを喚きながら
訳が分からなくなってふと視線を横に向けると、壁に打ち付けられた鏡に自分の姿が映っていた


顔にまで真っ赤な返り血を浴びた、一人の狂人がそこにいた


End.

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