裏物部屋

□それこそ馬鹿みたいに
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荒垣は真田の事を、よく「馬鹿」だと言った

真田も荒垣の事を、よく「馬鹿」だと言った

それを口にしては口論になり、酷い時は殴り合いにまでなった

「馬鹿アキ」
「馬鹿シンジ」

互いの事をそう呼んで、だけれども次の瞬間にはけらけらと笑い合う

そんな二人の関係は、心だけでなく身体まで繋がってからも、全く変わる事はなかった







「ん……んぅ…」

目を閉じたまま、窒息しそうな程強く息を吸い上げ、並びの良い歯を舌先でなぞる

すぐ目の前からひっきりなしに洩れ出る、ぐずつくような甘い吐息がなんともくすぐったい

綺麗に結ばれた黒のリボンタイを片手で抜き取り、首元まできっちりと閉められたボタンを一つ一つ、ゆっくりと外していく
ぷち、ぷち、とプラスチックの弾ける小さな音が、普段は気にも留めない癖にこの時ばかりはやけに耳に響いた

布地の擦れる音が鼓膜を刺激し、開けられたシャツから白い肌が曝される
ひたりと滑らかな感触に触れ、何とも言えない高揚感が背筋に沸き上がってきた――その時

ばしっ、と肩を叩かれた

何事かと荒垣が伺えば、本当に窒息寸前、といった顔色の真田が、震えながら何度も肩を叩いてくる

「………」

重ねていた唇を解放した途端、ぶはっっ、としどけない雰囲気を盛大に吹き飛ばす様な息継ぎ
「っはぁ…っ、は…っ、し、死ぬかと…思っ…」
「アキ…お前なぁ…」
盛り上がっていた気分が一気に萎え下がり、辟易した様なため息を吐く
「鼻で息も出来ねぇのかよ」
ぱしり、と短い前髪から覗く額を手の平で叩けば、拗ねた様な表情が浮かぶ
「シンジがいきなり舌、入れるからだろ…それに長すぎだ…」
真田の不満気な呟きに、あっけらかんとした様子で返す
「だってお前、口塞いどかねぇとあんあんうるせーし」
荒垣がそう言うや否や、まるで茹で蛸のように耳まで顔が赤くなった
「そ、そんな声出してないぞ!?」
髪の毛が逆立つ勢いで激昂する一瞬の隙を突き、シャツの下から脇腹をするりと撫で上げる
「ふやっ!?」
途端、びくりと身体が跳ね上がり、真田の口から甘い声が漏れ出た
はっ、と気付くも時既に遅し
「ほらな」
意地の悪い笑みを浮かべながら言う荒垣
頭に血が昇る思いをしながら、今しがた見せた事実なだけに只々悔しげな視線を向けるしかない
「ふ、不意打ちなんて卑怯だぞ…!」
「喧嘩じゃねぇんだから、不意打ちもクソもあるか。それとも何か?一々、今から触るだの舐めるだの挿れるだの言えってのか?」
「なっ、いっ!?…いれ!?」
眇られていた眼が驚愕に見開かれ、既に朱に染まった顔が更に色濃く上気する
「冗談だっつの。んな面倒くせー真似出来るか」
しらっと言ってのけ、ついでにもう一度額を叩けば、「シンジ!!!!」と響く真田の怒声
それをけらけらと笑い流し、宥めるかの様に叩いた額に唇を落とした


肉体的に成長しても、精神的にまだ幾らか幼さが残る二人の間には、行為の最中でもこうした無邪気なやり取りが含まれている
いざ最後まで成し遂げるとなればきちんとそれらしい雰囲気にもなるというのに、この立ち代わりの早さは長年の付き合いならではというか、この二人ならではと言う所かもしれない

――ただ、この時は少し日が悪かった
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