小噺

□皆で祝おう荒垣誕!
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はっ、と目を覚ました時に荒垣の視界に映ったのは、薄暗い中でも見馴れた寮の天井だった

「…ハッピバースデートゥーユ〜♪」

覚醒した意識に、耳に馴染んだメロディーが聞こえてくる

「ハッピバースデートゥーユ〜♪」

のそりと体を起こし、電気の消された薄暗い室内を見回す

「ハッピバースデーディーア…」

パッと視界が明るくなり、見馴れたメンバーがずらりと荒垣を取り囲んでいるのが分かった

「…ガッキ〜♪」

(ガッキー!?)
何か馴れ馴れし!と思ったのもつかの間、全員が笑顔で手にクラッカーを取り、最後のフレーズを歌い上げる

「ハッピバースデートゥーユ〜♪」

パーン!とクラッカーの弾ける音が連続で響いた

「荒垣先輩、お誕生日おめでとー!」
「おめでとうございます!」
「おめでとうっすー♪」
「おめでとうであります」
「ワン!ワンッ!」
「おめでとう、荒垣」
「やったな、シンジ!」(←?)

呆けた表情の荒垣に、寮生が一斉に拍手と祝いの言葉を向ける
「誕生日…そうか、そういやそうだったな…」
思い出したように呟いた言葉に、天月がニッコリと笑って答えた
「真田先輩から聞いたんです。今日は荒垣先輩の誕生日だって」
「シンジのことだ。どうせ自分の誕生日も忘れて、いつもの様に溜まり場で腐ってるつもりだったんだろう?」
そうはさせん、と何故か好戦的な真田に呆れつつも、桐条がダイニングテーブルを指差す
「桐条家のシェフが腕によりをかけて食事を用意したんだ。お前も、誕生日くらいは少し羽目を外したらどうだ?」
見ればテーブルの上には、テレビやホテルの広告でしか見たことがないような豪華絢爛な料理が並べられている
普通に凄い、とずらずら続く料理の列を眺めて行き…視界の端に明らかに料理ではない得体の知れない物体を見つけた時、荒垣はそこでふっと視線を外した(見てはいけない物を見た時の反応)
「以前溜まり場で助けて貰ったお礼もありますし、もう全力に殺す気で祝いますからね、先輩!」
祝いには若干物騒な物言いで天月が告げ、それに荒垣は――面には出していないが、正直言って感動していた
それも物凄く

常日頃から強面不良のレッテルを貼られ、周囲から恐れられていた荒垣
幼なじみで唯一無二の存在でもある真田は毎年祝ってくれたが、こんなにも盛大に大人数で祝われたのは生まれて初めてである

「わざわざこんな手の込んだ真似しやがって…暇な奴らだな」
感情を素直に表現出来ない荒垣は皮肉った言葉しか出せないでいたが、寮のメンバー達はちゃんと理解していたのだろう、少し照れたような荒垣の表情と、続けて小さく呟かれた言葉に笑顔を浮かべていた
「……ありがとよ」

荒垣真次郎、18歳の誕生日
それは人生の内でも忘れられない日となった

――良い意味でも悪い意味でも


「……はい、じゃあちょっと良い話モードはこれで終了〜!」
パン、と空気を変えるような手拍子とだらけた天月の口調に、思わずズルッとソファーから滑り落ちる荒垣
「…あ!?何だ!?これで終わりじゃねぇのかよ!?」
「当たりまえだのクラッカー!!(古)こんな薄ら寒い話で終るわけないでしょうが!連れて来られるまでのくだり部分でギャグ要素は済んだとでも思ってましたか先輩?甘い甘い甘い!!ここを何処だと思ってんですか!荒真についちゃほぼアウトローなギャグサイトですよ!?」
天月の畳み掛ける様な言葉に、ショックが拭いきれず押される一方の荒垣
そしてやっぱり荒真はあるのか、と嬉しいやら悲しいやらな心境だった(一応嬉しいもあるらしい)
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