鋼の錬金術師/U

□もう一度、貴方に
2ページ/6ページ

アルは涙ぐんだ瞳で叫んだ。
「何でそんな事言うんだよ!折角逢えたのに、やっと……兄さんの体温とか、分かるようになったというのに…っ!」
「…ごめん」

―――それしか、言えなかった。

そんな俺に、アルは下に俯いた。
「兄さんの方こそ、本当は後悔しているんじゃないの?」
「!」
俺は思わず、アルの顔を凝視した。
アルは自嘲気味に笑うと、震えた声音で言った。
「…大佐と、離れてしまったことを、さ」
「………な……!」
急所を突かれ、思わず言葉を無くしてしまった俺に。
アルは下に俯いた。
「あのね、兄さん。本当は僕、知っていたんだ」
「何、を」
アルが一体何を言おうとしているのか、全く判らなくて。

思わず声が、震えた。


「…あの日の夜、僕と少尉は、大佐が入院した病院に駆け付けたんだ……」
「…まさかアル、お前…!」
『あの時』の状況を鮮明に思い出した俺は、思わずアルの顔を凝視した。
アルは哀しげに笑うと、言った。
「その時、僕は悟ったよ。『ああ、兄さんが『本当の自分』に還れるのは、弟である僕ではなく、大佐の腕の中だけなんだな』って」

完全に言葉を無くしてしまった俺に。
アルは、付け足す様に言った。
「ごめんね、兄さん。引き裂くような事してしまって」
そう言ったアルを、俺は思わず抱き締めた。
「……兄さん?」
俺は懸命に涙を堪えると、口を開く。
「違うよアル。俺がお前の前で泣いたりしなかったのは―――」
俺は更に強く抱き締めると、アルの耳元で囁いた。
「アルを巻き込んだ上に、人間としての感覚全てを奪った俺が、お前の前で泣く資格なんかない。そう、思ったから」
そう言った俺に、アルはクスリと笑った。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ