鋼の錬金術師/T
□2.きんいろにゃんこ と くろいろわんこ。
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エドワードくんが帰ってくる事が分かると、私の上司はまるで別人の様に黙々とペンを走らせる。
それはそれは、普段の5倍以上の速さ。
だから私は、提出期限が1週間以上先の書類も『緊急を要する書類』として提出する。
物事を円滑に進める為には、これは仕方のないこと。
何しろ私の上司は、筋金入りの『サボリ魔』だから。
色んな意味で大変。
やれば出来る人なのに、ね。
そんな中、大佐は書類から顔を上げ、私に問い掛ける。
「中尉、鋼のから何か連絡有ったかね?」
「いえ、まだです」
「…………そうか」
そう言って、大佐はふわりと微笑んだ。
それは心からの『微笑み』で、他の貴婦人には決して見せない程柔らかなもの。
だが彼は何かを思い出したのだろう、くすくす笑った。
「気まぐれな彼の事だ、貴重な文献を与えないと、すぐふて腐れてそっぽを向いてしまう。全くもって、困った子猫だよ」
口ではそう言いながらも、微笑みは余りにも優しい。
それと同時に、大佐が如何に彼を特別視しているかが良く分かる。
大佐は片手で頬杖を付くと、私に笑い掛けた。
「何か私の顔に付いているのかね?」
ハッと、私は我に返った。
それと同時に、私はしばらくの間大佐の顔を見つめていた自分に気付いた。
「…いえ。余りにも穏やかな顔で微笑んでいらっしゃるものですから」
「…そうか」
そう言って、彼は眼を伏せると再びペンを走らせた。