鋼の錬金術師/Y 20210223
□狐の恩返し
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ある日、士官学校の訓練中に狐の子と出逢った。
母狐は既に息を引き取っていた。
そんな母狐の側から離れようとしない幼い子狐が不憫で、上官の眼を盗み、私はこっそり食べ物を与えた。
だが、人間不審となっている子狐は、威嚇し食べようとしない。
私は仕方なく好物のカボチャのキッシュを子狐の前に置き、その場を離れた。
そして、それから10年後。
『大佐!』
敵に、錬金術を無効化する陣に嵌められた私と鋼のは、正に絶体絶命だった。
そんな時だった。
『大佐、あれ、』
背中合わせで立ち尽くしていた私の背後で、困惑気味な彼の声にふと振り返った。
そんな私の眼に写ったのは、敵と私達の間に佇む、一匹の美しい狐。
余りにも場違いな光景に、私達も敵も何事かと見つめる。
だが次の瞬間、狐は、声高く鳴いた。
そして、大地を蹴りあげ飛び上がった狐の長い尾が、まるで、花が咲くように拡がった。
尾の数は、9本だった。
狐は、大地に着陸すると、9本の尾から火の粉を振り撒きながら、まるで、ネズミ花火のように駆け回った。
すると、パキン、と何かが壊れる音が空気を振るわせた次の瞬間。
『今だ、指を鳴らせ!』という、凛とした女の声に導かれるように私は指を鳴らした。
−−−−パキン、
錬金術が、発動した。
錬金術を取り戻した事で優勢と成った私達は、反乱分子を制圧する事に成功した。
勝利を納めた私の耳に、再び凛とした女の声が響く。
『カボチャのキッシュ、旨かった。ありがとう』−−−と。
20210223