鋼の錬金術師/Y 20210223

□もしも願いが叶うなら、
1ページ/5ページ


ふと、今でも思う事がある。

俺が下した『選択』は、果たして本当に正しかったのだろうか、と。

『扉』の向こう───俺が生まれ育った『本当の世界』から持ち出した『爆弾』を探す為だけに、錬金術が使えぬ『この世界』に戻って来たけれど。


だけど、結局は見つけられなかった。

いや、違う。


間に合わなかったんだ。

その為に遠い島国に二発も落とされ、沢山の命が一瞬で失った。


だから。


『俺は、人並みの幸せなど手にする価値も資格もない』――――と。


これからの人生を、そう生きようと誓ったというのに。



「初めまして。私の名は────」


漆黒の髪。
切れ長の、黒き瞳。
何度も耳にした、心地よい声音。



そう。

何と俺は、遂に『こちら側』の『彼』と出逢ってしまったのだ。


しかも、同性同名。



──何という、皮肉だろう。


よりによって、彼もまた『科学者』だったなんて。


俺が助手をしていた教授が緊急入院してしまい、その代理として現れた『彼』は、本当に彼と同じだった。


あの大佐本人と、錯覚してしまう位に。


しかも『彼』も戦争経験者で、地位は皮肉にも『大佐』だったのだ。


絶望でしかなかった。


『大佐』であって、大佐ではない『彼』を前にして、俺はどんな表情(カオ)をすればいい?



次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ