鋼の錬金術師/Y 20210223

□ある愛の詩、あれから。
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いつからだろうか。

一回り以上、年齢が離れた『君』に対し意識し始めたのは。


きっかけなんて、覚えてない。

気が付いたら、君が旅先から戻る度に心踊らせていた。


皮肉にも、真っ先に気付いたのは。


『大佐。いい加減、ご自分の気持ちをお認めになられてはいかがですか』


鷹のような鋭い眼差しを私に向け、彼女はピシャリと言い放ったのだ。


一瞬、何を言われたのか分からなかった。

ただ、唯一理解していたのは、私以外の誰かと楽しそうに雑談している彼を見た瞬間抱いたのは。


激しい、苛立ちだった。

確かに、剥き出しの感情で部下に指示していたのは、自覚していた。


自分でも何に苛立っていたのか分からなかった。


そんな中、まるで鉄槌を下すかのような中尉のこの言葉。


『好き、なんでしょう?エドワード君の事が、』

『――――――!』


まるで、巨大化した金属製のバケツを脳天に直撃食らったような、激しい衝撃を受けた。



『な、なにを、』


何故、しどろもどろになってしまったのか、自分でも分からない中、中尉が言い放ったのは。


決して、聞きたくない言葉だった。


『仮に大佐がエドワード君の事が好きだったとしても。彼には可愛い幼なじみの彼女が居ますからね。』


・・・・正直言って、どんな態度をとったのか覚えていない。


唯一、覚えていたのは。


霞む視界に佇む、旅先から戻ってばかりの彼と。

『すみません大佐、ああ、どうしましょう、』という、珍しく狼狽える中尉の声。


覚えて、いないんだ。


ただ、唯一理解していたのは。


『・・・大佐、』


私の頭を優しく包み込むような、小さな両腕と鼓動。


そんな中、中尉はひたすら彼に謝罪の言葉を発していた。


『ごめんなさいね、エドワード君。まさか、ここまでショック受けるなんて、』


そんな中、彼はクスリと笑っていた。


『気にしなくていいよ、中尉。これでやっと、これを渡す勇気が持てたんだから』

そう言いながら両腕を解いた彼は、俯き視界が霞み歪んだままの私に長細い箱を差し出した。

その箱に書かれていた文字は――――





「おい!」

怒声と共に、ポコリという頭への衝撃にはっと我に返った私は、ふと、振り返った。


其処に立っていたのは。


軍服に身を包んだ、恋人件部下が眉間にシワを寄せて私を睨み付けていた。


「ぼんやりしてねぇで、とっとと仕事しやがれ、ほらよ!」


まるで、刺す勢いで差し出された『それ』を見た私は、ふわりと笑った。


それは、『エディア』と書かれた長方形の箱。



「・・・ありがとう、エドワード」


チョコレートの箱を受け取り、そう言いながら抱き締めれば、彼は何かを思い出したかのように、言った。


「そういえばさ、初めてこのチョコレートを渡した時の事、あんた覚えているか?」

からかうような口調で問われ、私は一瞬言葉を詰まらせた。



そんな私の頭を、あの日と同じように抱き締めて。

私の耳元で囁いた。



それは、出来るものなら過去に戻って抹消してしまいたい失態。



「・・・・頼むから忘れてくれ」
「やだね。絶対忘れてやるもんか」


だが、彼が次に発したこの言葉に、私は救われたような、そんな気がした。


それは。



―――――俺、あんたのその涙を見て、チョコレートを渡す決心がついたんだよ―――――








20180212


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