鋼の錬金術師/X

君に言えなかったことがある5題/第三章『行かないで〜 君と離れたくなかったこと〜』
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――――行かないで。


誰かに対してそういう感情を抱いたのは


幼き頃の『あの日』以来かもしれない



まして、一回り以上歳の離れた同性に



こんな厄介な感情を抱いてしまうなんて――――







3.行かないで〜君と離れたくなかったこと〜




賢者の石を求め、彼等が旅立つその日は、透き通る程の快晴。


だが私の心は、真逆だった。


―――行かないで。


不意に蘇るのは、幼き頃の『あの日』と。


仮眠室から立ち去る、『彼』の後ろ姿―――。



「………大佐?」


不意に呼ばれ、私はハッと我に返った。


駅のホームに背を向け、心配そうに私を見つめる琥珀色の瞳に、私は慌てて作り笑いを浮かべた。



「気をつけて、行ってきなさい」

「………ああ」



だが彼の、まるで射るような力強い眼差しに、私は思わず視線を逸らした。



「………アル、発車までの時間、どの位有る?」

問い掛けられた弟は、可愛らしい声音で答える。

「ん〜、あと5分位かな?」


その言葉を聞いた瞬間。


「な…!?」



彼は突然、私の腕を掴んだ。


「ちょっと来い!」


物凄い勢いで、待合室の中に連れ込むと、彼は強引に私を椅子に座らせた。


必然的に見上げる私に彼は眉間に皺を寄せたまま、言った。


「必ず、帰るから」



だから、そんな顔すんな。


そう言って彼は、私の頭を優しく抱き寄せた。


私は『すまない』と呟いて。


ゆっくりと彼の背に両腕を回し、瞳を閉じた。







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