鋼の錬金術師/Y 20210223
□もしも願いが叶うなら、
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思わぬ事態に、思わずパニックを起こした俺の耳元で。
『彼』は、彼と同じように囁いた。
「・・・鋼の。エドワード、」
「!」
絶句した俺に『彼』はゆっくりと両腕を解くと、今にも泣きそうな笑みを浮かべ、言った。
「君を、そう呼んでいたあの世界の『私』は、君を誰よりも想っていた。愛していた、」
「・・・やめろ、」
「今も『彼』は、君の事を想っている。もちろん、私も。・・・だが、どんなに君の事を想っていても、・・・私は、あの世界の『私』にはなれない・・」
そう言って、『彼』は一筋の涙を流しながら悲しげに微笑む。
────胸に、激痛が走った。
どんなに想っても愛しても、決して届かないこの想い。
俺は、もう二度と逢えない錬金術師の『大佐』を想い、この世界の『彼』は、こんな俺を想う。
互いに報われぬ激情に翻弄されながら、俺達はこれからの長い時代(とき)を生き続けなくてはいけないのだろうか。
「・・・・何故、」
はっと我に返った俺の両肩に置かれた『彼』の手が、震えていた。
「何故君は、『私』じゃ駄目なんだ、・・・同じ、『ロイ・マスタング』なのに、どうして・・・っ」
「・・・・・ごめん」
「こんなにも、君の事が好きなのに・・・・っ」
俺は、片手で顔を覆い両肩を震わせながら蹲る『彼』を、どうしたら良いのか分からなくて。
ただ、立ち尽くしていた。
────もしも、願いが叶うのなら。
『彼』も大佐も、そして、この俺も。
悲しみの無い人生を送れますように。
だが。
この心の傷が癒えぬ限り、それは決して叶わぬ願い──。
20190503