鋼の錬金術師/X

君に言えなかったことがある5題/第二章『ごめん〜君に謝りたかったこと〜』
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「…大佐、あんたさ、ちゃんと寝てるか?凄いクマが出来てる」



だが大佐は何も答えない。


恐らく、極度の寝不足と疲労で思考が鈍っているのだろう。


大佐は少し、小首を傾げる。



俺は徐に机に鎮座している電話に手を伸ばし、内線番号を押した。


数回の呼び出し音の後、電話に出たのは。


『はい』


中尉だった。



「もしもし、中尉?大佐の仕事で今日中に仕上げなくてはならないものってある?」



何の前置きもなく喋り出した俺に、流石の中尉も面食らったのだろう。



だが、旅先から戻ってから直で執務室に行った『理由』を瞬時に悟ったのだろう、彼女は冷静な声音で答えた。


『いえ、今回は特にないわ。何か緊急の書類提出でもあるの?』



「いや、今からさ、大佐に一時間、いや、二時間位、『時間』くれないかな?…責任は俺が取るからさ、』



たったそれだけで。


中尉は、俺の言いたい事を理解したのだろう。


受話器から、中尉の思い詰めたような声音が吐息のように漏れた。



『………お願い、エドワードくん。大佐をちゃんと休ませてあげて?私達じゃ、もう何を言っても聞く耳持ってくれないのよ』

「うん」


『もしエドワードくんさえ良かったら、大佐が眠るまで側に居てあげて欲しいの。頼めるかしら?』



「うん、分かった」


そう答えると、俺は受話器を置いた。


そして、ぼんやりとした様子の大佐の腕を掴むと、強引に立ち上がらせる。



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