短編集。
□遠回し
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「明日は何の日
でしょー?」
「…明日?明日
って何日。」
「明日は2月1
4日だC!」
「14…オート
リくんの誕生
日?」
「違うー!それ
もそうだけど
、そっちじゃ
ないー!」
「ああ、バレン
タインか。」
そんな会話を彼としたのは昨日。
つまり本日2月14日。
ため息を吐きながらも、長ったらしい廊下を黙々と歩く。
あんな無垢な笑顔で「欲しい」なんて言われてしまえば、断れる筈もなくて。断る理由もないし、仕方ないなと了承した。
チョコレートを作るのは何の難でもないのだが、彼を見つけるのは少々難しく。
「ここにもいない、か。」
彼イチオシの空教室にも居ないとなると、もう何処にいるか分からない。
くしゃりと無造作に頭を掻く。
屋上、保健室、図書室、空教室。
段々イライラしてくる思考を、どうにか冷静に保ちながらうろうろ校舎内を彷徨う。
氷帝学園、無駄に広すぎて困るものだ。
本日何度目か分からないため息をついて、ちらと窓の外を眺めた。
天気はうざったらしい程の快晴。二月にしては珍しい、ポカポカ日より。
こんな日には外に出て日向ぼっこをしても大丈夫そう一一日向ぼっ、こ?
「暖かい日は、
この場所で寝
るのがお気に
入りだCー」
ずっと前に彼からそんな話しを聞いた場所があった。
たまたま本を読んでいたら、彼が上からふってきて。
は?、なんて聞き返す前に彼は寝てしまった。まあ、そんなものは愚問だったけど。
そんなあの場所、そういえばまだ、言って無かった。
歩いていた足を止めて、ゆっくり逆に振り返り、全力で走った。
彼が居るであろう、あの場所に。
大きな木が見えてきて、ゆっくりスピードを落していく。息を整えて、よくよく木の幹辺りを見る。
見えたのは、キラキラと靡く、髪。
思わず息をのんだ。自分でも、なんでこんなに緊張しているのか分からなかった。
「やっぱり此処だった。」
「…えへへ〜、おめぇなら、絶対見つけてくれると思ってたCー」
彼、もとい芥川はヘラリと笑いながらそう言った。私は、まったく…と苦笑をもらしながら、芥川の隣りに座った。
「超探した。」
「おれだって、ちょー待ったー。」
「大体、分かりにくすぎんのよ、アンタは。」
軽くでこピンを食らわながら、言葉を交わす。
風が気持ちいいな、なんて柄にもなく思いながら、本日のメイン(まあ、あのブツだ)を出した。
「はい、コレ。」
「………え?え、ほんと、に?」
「作れって言ったの誰よ。」
「おれ、だけど…」
出したのはクッキー、自分でいうのも何だが結構自信作だったりする。
差し出せばすぐ受け取ってがっつくと思ったのに、反応はなんかためらう感じで。
む、と頬が膨らんでいくのが分かった。
「…別に、手作りが食えないっていうならいいのよ?こんな男女より、他の女の子の方が絶対うまく作れるだろーし?」
ふん、と顔を背けた。
自分でも分かる、可愛くない言葉を並べては吐き出す。
強気な言葉とは裏腹に、きゅうっと胸が痛くなって泣きそうになる。
なに、これ。こんなの知らない。
「………う」
「え?」
「……〜っだから!!貰うって言ってんの!!」
いきなり大声を出した芥川。本当にいきなりでビビった。
ゆっくり顔をそちらに向けると、芥川は俯きながらも、しっかりと私があげたクッキーを握ってくれていた。
そのまま芥川は掠れた声で、だけど、と続けた。
「あ、くたがわ…?」
「だけ、ど……その、期待しても…いい?見込みあるって、思ってもいい?」
「……え?あの、どういう意味…?」
「〜〜〜っ鈍感!!」
は?、という言葉は飲み込まざるを得なかった。
ばっと顔をあげた(その顔は真っ赤だった…)と思ったら、すぐに目の前に彼の顔が寄ってきていて。
鈍感、と言われた理由が分かったと同時、私の顔も真っ赤に染まった。
それは遠回しな告白
(私の胸のもやは、いつの間にかなくなっていた)