短編集。
□みにくい
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今日も俺はやってきた。
裏庭の、小さな木の下。
ここは俺の特等席で、キミとの二人だけの、秘密の場所。
そこに向かえば、キミはもう木の下に来ていて。
無意識に、口元が綻んだ。
「ふふっ、また来てくれたんだ?芥川くん。」
柔らかく微笑んで、《おいで》と呼び掛けてくれる。
申し訳ないとか、思ってない訳じゃないんだけど、その言葉に甘えてしまう。
キミの膝の上はあたたかくて、キミに頭を撫でてもらうのが気持ちいいから。
「ふわっふわよね、芥川の髪は。」
「えへへー。」
そうしておけば笑ってくれるから、その言葉は飲み込んで、呑気に笑うだけにする。
そんな、なんでもないやりとりが、とても特別に思えてるんだ。
「…今日も、聞いてくれる?」
そう言って笑うキミの表情は、恋する女の子の表情で。
分かってた。
好きな人がキミにはいること。
分かってたよ。
その人の話をするということは、何か進展があったということで。
胸が痛くなった。
「今日ね、彼から挨拶してくれたの。」
どんなに願っても、目の前で優しく、綺麗に微笑む彼女を手に入れることは、出来ない。
「…応援してるC。」
思ってもない事を言って、自制をかける。
有難う、そう言って笑う少し切なげな表情が、実は好きだから。
そう決め付けて、目を閉じる
夢の中なら、手に入るかもしれないから。