短編集。
□僕は涙を溜めた瞳で手を振った
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俺が先輩を好きになったのはいつからだろう。
そうふと考えてみたのは、先輩ら三年生があと10日もすれば卒業するという日だった。
いつから惹かれていたのだろうか。
俺と先輩の繋がりと言ったら、委員会だけ。
ああ、そうだ思い出した。入学式の、受付。あの時一目惚れしたのが、先輩だったんだ。
一目惚れして、調べて、同じ委員会に入った。
初めは見てるだけで良かった。
一緒の時間を共有出来ていることが、嬉しかった。
「………。」
授業中だというのを忘れて考えこんでいたようで、いつの間にか号令は終わっていた。
お前ヘンやで、とダチの高橋が言ってきたので、余計なお世話やと短な返事を返してやる。
「もう、卒業なんや。」
私は、実感出来ないでいた。あと10日もすれば、この四天宝寺中学とはさようなら、私は東京の高校へと進学する。
「なんや、元気あらへんなぁ。」
「……忍足ケン。」
「なあ、それ、卒業するまでそのまんまなん?」
勿論と即答すると、彼忍足謙也はうなだれた。
「じゃあ、聞くけどな。アイツのことなんて呼んでんねん。」
「忍足ユウやけど。」
大層なため息を忍足謙也はついた。仕方ないじゃないか、二人とも忍足だし、覚えられない。それに、彼氏が名前呼びを許してくれないのだから。
「…そーいや、お前東京行くんやろ?」
「うん。」
「なんで?」
「……彼氏が東京にいるから。」
彼氏?!そんなの初めて聞いたんやけど!
そんな風に叫んでいる彼をほっておいて、私は帰路へついた。