捧げ物&頂き物

□この声が届くなら
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この声が、届くなら






「水・・・た、に・・・?嘘だ。寝てるだけでしょ?ねぇ!そうでしょ!?起きてよ!!水谷っ!!!」
「栄口君。気の毒だが・・・」
「・・・・・っ!水谷ぃぃ!!」

俺は泣いた。
  涙が涸れても
    泣き続けた。
叫べる限り
    叫んだ。
声が出なくなっても
     叫び続けた。


もう、
何も届かないのは
分かっていたけれど・・・





*◇*◇*



ある日の朝。
いつものように朝起きて、いつものように家を出た。
いつもと
変わらなかった。

変わっていた事と言えば、梅雨でもないのに雨が降っていた事。
霧雨と小雨の間位の、シトシトと肌に張り付くような。
軽く舞うけれど、重たく地面を叩いていた。


『今日は何か起こるぞ』

妙な胸騒ぎがした。

俺は鞄を肩に掛け直して、学校まで走った。
早く、水谷に会わなきゃいけない気がした。


   「ただの勘違い」


そうかもしれない。
けど、
そう思ったところで、この妙な感じは消えなかった。




IN 学校

朝早くの学校は、静けさが痛いくらいだ。
でも、ほんの2,30分もすれば生徒たちに声が響き始める。登校時間の10分前には教室や廊下に活気が溢れている。
俺は、そんな廊下を理由の分からない不安とともに足早に進む。
人と人の間を縫うように進んでいく。


下駄箱の前あたりまで来て水谷が来るのを待つ。





しばらくして登校してきた水谷が俺に気づいて駆けてきた。

「栄口ぃ!!おはよっ」
「はよ」

ホッとした。

     まだこいつはここに居る。

そう思った。

こんなこと思った自分に驚いたけれど、今ここに、愛しい人が居ることに、とても、安堵した。



でも、
それでも、

一度感じた「不安」は
消えようとはしなかった。










部活が終わって帰るころ、
あの「不安」は最高潮に達していた。

俺は早めに帰らなくちゃならなかったからあまり気にしていられなかったけど、着実に「不安」は大きくなっていた。


「おつかれー」

部室を出る前、中に居た全員に声をかけた。
返ってくる声を聞ききる前にドアを閉める。


瞬間



水谷の
何か言いたそうな顔が横目に映った。












その時、聞いておくんだった。



     雨なんて、嫌いだ。。。




その日、帰る途中
酔っ払いが運転していた車に撥ねられて、水谷は死んだ。
結構とばされて、即死だったらしい。



あの時、


思い出すたびに涙が出る。

悔やんでも、悔やみきれない。

君は、俺をここにおいて、


         逝ってしまった。


もう、
何も聴けないじゃないか。


ここに、
君の温かい掌は無い。


もう、伝えられない。









でも、
    もし、
        この声が届くなら、



風に乗せて

      君に伝えたいことがあるんだ。。。


 
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