倉庫もといゴミ箱
□交わりし時
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▼テイルズ×ヘタリア
┣プロローグ的な眉毛
┣捏造ひゃっほい
┣神羅=ヴィンス
┣気が向いたら続く
┗海よりも広い心でどうぞ
魔術というものが世間一般で使われ、それによる文明や歴史が最も栄えていた頃。
その力の源とも言える精霊を呼び出すために人柱となった人間がいた。正しくは、人柱とさせられた。であるのだが、それを知るのはごく一部の者しかいない。
誰もが、その人間は望んで人柱になったのだ。と思っている。
それと言うのも人間を人柱とすることは禁忌とされ、力を持つ魔導師達の間では暗黙の了解で伝えられていたのだ。
この人柱を必要とする精霊召喚は、ほんの些細な勘違いから起こってしまった悲劇と言えよう。
結果として、一人の魔術師は一つの禁忌を犯し、たった一人の人間を失った。
その出来事から数百年。一人の青年は彼方まで見渡せる高台の上に座り、かつて精霊と呼ばれていた種族と話をしていた。
その足元に広がるのは魔法陣と呼ばれる、精霊を召喚するために描かれたものだ。
本来召喚魔術を行うには、ある程度の下準備をするのだがこの青年にはそんなもの必要ない。
彼はその身一つで自然の力を借りることができ、精霊をも呼び出せるのだから。
「……姿を現し、嬉々として、欺くことなく我に語りかけよ。アーサー・カークランドの名において命じる。来たれ、シルフ」
突如、魔法陣を包むように竜巻が起きたかと思うと、青年の前に一人の精霊が姿を現した。
「やれやれ。誰かと思えばやっぱりアンタか」
「久しぶりだな、シルフ」
生意気そうな少年の姿を取るその精霊はフンと鼻を鳴らして腕を組む。
「ウンディーネもいたようだね」
同族の気配を察したのか、相手は揺れる水面に視線を寄越した。
「しかしあれから400年か。お陰で最近退屈で仕方なかったよ」
そんなになるか。と懐古するアーサーにシルフは、用向きは何かと空中で足を組み替えて問う。
この青年が自分達を呼び出すなど、余程の事でない限りはありえないからだ。
「お前はかつての栄光を取り戻す気はねぇか?」
「かつての栄光?」
「精霊と呼ばれてたあの頃、だ」
「……………」
彼らが精霊と呼ばれていたのは400以上も昔の事。科学が発達し魔術が衰退の一途を辿る今となっては、彼らは魔物と呼ばれ忌み嫌われているのである。
それが四大精霊と言えど例外ではなかった。
「……人間の傲慢さに反発した仲間達が一部狂暴化し、村や人を襲うと風の便りで聞いた。アンタが何かしたのか?」
「さあ?好きに解釈するといい」
肯定も否定もせず微笑むアーサーにシルフは嘆息する。結局この青年は、敵と見なした相手には容赦がないのだ。
「協力はしてやるよ。ただし僕らの力は充てにしない方が良い」
風に体を乗せて精霊は目の前の人間を見据えた。時として真実は虚偽よりも重たいからである。
しばし両者無言のまま、シルフは風と共に消え去った。
「……皆が皆ではないが、自然界に影響することなく力を発動できるとは限らないから、か」
自然と言うのは魔術の源である。どんな魔術であれ自然の流れを無視して発動すれば、必ず術者に被害が及ぶ。
つまり扱う力が大きい程、負担も大きくなるのだ。
現に、2人の精霊を呼び出したアーサーの魔力は半分を切っていた。普通の人間なら即倒しているレベルと考えれば分かりやすい。
「それでも俺は…、」
瞼を閉じた青年の脳裏には大切な友人との思い出がある。
そして青年は立ち上がる。
あの時の約束を果たすため、自分の誇りのため、力なき"彼ら"のために、青年は拳を握り締めた。
「必ず迎えに行くからな、ヴィンス」
一つの誓いを口にして。