華咲く頃が終わっても


□06 あの日のときめきは?
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知覧が入院中と分かり、多紅世は毎日病室を訪れていた。

「………」

まだ、閉じられた瞼を持ち上げる力も無くて弱々しい姿だったが、少しずつ回復に向かっていた。

「知覧君、焦る事は無いよ、ゆっくり治して行こうね」

「………た………ぐせ………さん」

「うん、ゆっくりね」

そんな街日が長く続くと思っていた矢先。

「え?来られなくなった?」

それは突然の別れだった。








「きゃーはは!良い気味ね!結局はその人も知覧を見捨てたのよ!」

「真理亜!少しは口を慎みなさい!」

「だってお父様、知覧はあれからまた悪くなっているのでございましょう?その多紅世とかいう人も薄情な方ですわ!」

真理亜の言葉に、父親は何も言い出せなかった。

「多紅世さんなら、知覧を救えると思っていたのに」

チャイムが鳴って、損座がやって来た。

「兄貴、たった今知覧の意識が戻ったって病院から電話が」

「本当か!?」

病室に入ると、そこには体を起こして目を開けた知覧がいた。

「知覧………心配したぞ………」

「………」

しかし、父親を目の前にしても、知覧は何の反応も示さなかった。

「どうした、知覧?お父さんだよ?」

「………」

ずっと、一点を見つめながら動かない知覧が涙を流し、震えていた。

「………た………ぐせ………さん………」

「知覧、あの人はもう来れないんだ」








「記憶障害?」

「はい、今知覧君の記憶には多紅世さんしかいないものと思われます」

「それじゃあ知覧は一体いつになったら」

「残念ながら多紅世さんが現れない限りずっとあのまま泣いて震えるしか出来ないかと」

「そんな………」

看護婦からの説明に、父親は絶句するしか無かった。








「おかけになった電話は電波の届かない場所にあるか電源が入っていないため繋がりません」

多紅世への電話を掛けるも、アナウンスが流れるだけだった。

「お父様、もう諦めたら如何?」

「知覧の為だ!」

父親は必死に電話を何度も何度も掛けた。







「あの日のときめきは?もう冷めてしまったの?」

近所に住むおばさんが話を聞き付け知覧に話しかけても、結果は同じだった。

「そうですか………知覧は多紅世さんをそんなに慕ってたんですね」

「もう、会えないのかねぇ………」

何日も何日も、繋がらない日は続いた。

「お母様、お母様、私、新しいドレスが欲しいなぁ」

「そうねぇ、考えておくわ」

「やったぁ!!」

「こんな状況で良くそんな事が言えるな!」

「あらあなたには関係無いでしょう?」

あっさりと言われ、父親は項垂れるしか無かった。

と。

トゥルルルルルー!!

電話番号を確認すると、知らない番号からだった。

「はい、もしもし」

恐る恐る出てみると………

「長い間、すみませんでした」

「多紅世さん!!」

それは、一筋の光明が差した瞬間だった。




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