Original.

□汝、死に損ないの幸福を愛せ
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それは地獄に他ならなかった。
自分に向けられていた視線で、優しむものや慈しむものなど全くなかった。
まるで、鬼を見るような。敵を見るような。
当然、そんな視線を晒され続けた自分に、人間を好く事など出来はしなかった。

でも、でもきっと。俺は、俺は幸せだった。

青い青い空は、ずっと憧れ続けたものだ。
終いには空になりたい。
どこまで夢物語を語り尽くせば気が済むんだ、と同期に笑われたりもしたけどさ。

お前達だけだったんだよ。
俺が近くにいる事を許してくれたのは。

お前達だけだったんだよ。
傍にいるだけでこんなにも楽しい気持ちになれたのは。

お前達だけだったんだよ。
俺が夢を語れたのは。

お前達だけだったんだよ。
こんな夢物語を抱くことを、語ることを許してくれたのは。

俺の事を内心嫌っていても、顔に出さずに接し続けてくれただけかもしれない。
俺を利用していただけだったのかもしれない。
それでも、お前達にならそんなこと構わなかった。


俺の目の前には今、渇望した大空がある。俺は空を飛んでいる。
鳥になっている。この広大な空を飛ぶ鳥になって、生きている。

贅沢は言わないさ。
生きている間にもこんなに贅沢したんだ。
生き方は選ばせてもらえなかったけれど、死に方くらいは選ばせてくれ。

もしかしたらこの命は、神様が俺に貸してくれたのかもしれない。
ああ借り物だったからこんな粗末に生きたのか。あ、関係ないか。はは、まるで遺言みたいだな。
汚いこの命をお前達に預けて綺麗にしてから返せっていう、な。何とも自分勝手な神様だな。
浄化し過ぎて神様にゃあ勿体無いぜ。

生きている間に贅沢したせいで死に間際までこんな贅沢が思い浮かんじまったよ。

空で死ぬのは、確かに俺の夢だ。
空になるのも、俺の夢だ。
空に生きるのも、俺の夢だ。

空ってのは意思が無いから、どんなに汚い命でも寛容に包んでくれる。
母のような包容力をもつ、空が好きだった。
お前達は意思を持っているけど、こんなに汚い命の俺を寛容に包んでくれた。
母のようではなかったけど、酷く居心地の良かった、お前達が大好きだった。
きっと俺にとって、お前達は空だった。
だから、

死ぬなら、最期にお前達の顔が見たい、なんて

はは、罰当たりなくらい目出度い我が儘だ。
だから、俺は、この我が儘も空に持っていくよ。
じき終戦になるだろう。
お前達は、女房でも貰って天寿を全うしてから死んでくれ。
その時は俺が迎えてやるよ。拒絶されても迎えるからな。

…もっと色々言いたかったけど、なんかもう、いいや。
長くてすまなかったな。
俺は明日、空に行く。部下達をよろしく頼んだぞ。

それじゃあ、俺は行くよ。じゃあな。


















































天にて、待つ。
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