mini chapters.

□時よ止まれ、汝は斯く も美しい
1ページ/6ページ




日に日に現れる怪人。
それを倒していくヒーロー達。
彼らが存在するこの世界で、こんな思考はおかしいんだろう。


この何度も繰り返された16年間、何億も積み重ねられた同じ時間の中、自分を救ってくれるヒーローなんて、いなかった。
自分を庇えば殺される。だから自分で強くなって自分で戦うしかない。
記憶できないほど重ねられた勝利より、何も知らなかった愚かで楽しかった頃のほうが、ずっと。
自分が自分のヒーローであることしかできなかった。脆弱で臆病な心を守る屈強で華奢な肉体。そう在る事でしか自我を保てない。
期待なんてしない。するだけ無駄だ。でもいつか。いつか、出てきてくれるだろうか。矛盾した愚かな期待をへし折る。
人である限り、生き続ける限りは希望を持つ。人生の内で希望をすべて絶たれた際、人が抱く最後の希望。それは、死だ。
祈汐は何度もそれに縋った。重なる絶望に耐えられなかった。

ずっと、ずっとずっと。何度も。待ち望んでは待ち草臥れ、あきらめた。



セミが鳴くある夏の日。
微睡む意識の中、額に硬く冷たい感触を感じて目を覚ました。
霞む視界に映る、鋼の腕。

「…ジェノス………?」
「…悪い、起こしたか」
「……ううん。…自主的に目が覚めただけ」
「顔色がよくないぞ」
「うん、まぁ……その、夢見が悪くて」

そういいながら辺りを見渡すと、さっきまで騒いでいた彼らは一斉にお昼寝モードへと突入していた。
フブキとキングはこの暑さの中汗を掻いて寝ているが、一方サイタマは平然と寝ている。鍛え上げた肉体は毛髪だけでなく新陳代謝まで破壊したというのか。

「…この人、謎だなぁ……」
「謎といえば、いつもお前に付いているあの二人はどうした」
「澪弥と拓斗ならシルバーファングのおっさんに呼ばれて行ったよ。おっさんは俺がてこでも動かないってこと漸く分かったっぽいし」
「お前まで勧誘しているのか」
「大変なことにね」

みんなを起こさないように立ち上がる。
上位ヒーローのみんなが酷く、幼く見えて、それが少し面白い。




.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ