カゲプロ
□好きな人を前すると優しくしちゃうよね。
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カノと出会って以来、毎日のようにシンタロー君、シンタロー君と名前を呼ばれる。まるで犬のように俺の姿をみては駆け寄ってきて、話しかけてくるのだ。ネコ目のくせに。
正直、自分のやりたいことを遮られるのは嫌なのだが、しばらく友人関係を築けていなかったことからメカクシ団の皆と関わることが少しずつ楽しくなってきた。昔はいろんな人を嘲笑っていたのに、今では相手の事を考えられるようになったと思う。それはあいつのおかげ。今は会えなくなってしまったけどもうその事は振りきったんだ。
「ねえ、シンタロー君」
ほら。今日もまた聞き慣れたアイツの声が聞こえる。
「なんだよ」
「今日さ、キド達出掛けるんだって。だから僕達もどこか行こうよ」
「…また外行くのかよ」
「いーじゃん、せっかく外に慣れ始めたんだしさ。もっと外に出ようよ」
ね?とカノが笑った。
「……分かったよ」
はぁ、とため息をついてその場から立つ。
「別にジャージでいいだろ?」
「うん、別に構わないよ、君のトレードマークだしね」
カノはまたクスリと笑う。
……こいつは笑ってばかりだと思う。いろんな感情を抱いても笑顔になってしまうのだろうか。
そんなこんなで俺達は近くのアウトレットモールに行くことにした。何故そこを目的地にしたのかイマイチ理解出来ないが。まあ、こいつのいきたい場所に俺はついていくだけだ。
「……なんか凄く嬉しいよ、友達と遊びに行けるなんて。僕キドとかセト達以外友達なんて居なかったから」
そう言われて俺は少し罪悪感を抱いた。こいつは特別な能力を持っているから人との関わりを避けてきて、俺は……普通に過ごせるはずだった時を捨て自分勝手に生きてきた。
こいつらの事を考えると申し訳なくなった。
「…俺も友達あんま居なかったからお前らの仲間になれて嬉しいよ。さすがに出会ったときはコイツらと関わって大丈夫なのか?って思ったけど」
「まあ、あんな事件が起こるなんて思わなかったもんね」
「ああ、俺あの時本気で死ぬかと思った」
「でも、あの時のシンタロー君の目はいい目してたよ?出会ったときからこの人メカクシ団に入ったら面白い!って思ってたんだ」
「本当かよ?俺いじられキャラにされてるよな……」
「だってシンタロー君面白いもん、あ、そういえば
今は僕のこと呼び捨てで呼んでくれてるよね」
「あー、言われれば確かに…」
そんな他愛もない会話して俺達は楽しんだ。するとカノが立ち止まって、
「ねえ、シンタロー君服あんまり持ってないんでしょ?だったら今日買っちゃおうよ?アウトレットだから安いしさ」
「だからここに来たいって言ったのか……」
こいつはつくづくお人好しだな……。というか、ここまでのくだりがカップルのようだ。
大体男二人で服を見合うってそうそうないだろ。
「うん、まあそうだね。ね、いいでしょ?イメチェンしてキド達を驚かせようよ!」
カノに腕を掴まれ店の中に引っ張られた。店内の中は俺には似合いそうもないブランドの服ばかり。丁度セールの時期だったため、金には困らなかった。
「うーん、シンタロー君てどんな服が似合うかなー?シンタロー君は格好いいし背も高いからなんでも似合うと思うんだよねー……」
カノはぶつぶつと喋りながらあちこちを転々と回り服を物色する。
「…………」
「ん?どうしたの、シンタロー君」
「え、い、いや?何か熱心に選んでくれてるから……。ていうか付き合いたてのカップルみたいだな……と思って……」
少し照れくさそうに答える俺にカノは、
「えー、てことは僕が彼女役なの?ショックだなー」
とクスクス笑っていた。