─学園ラブ─

□一夜
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「…ここ?」
暗い中見上げたのは山。
公園の真ん中に造られた大池の横に造られた、人工の小山。
「ああ。行くぜ」
「あ」
その山を見ながら訊くと、返事して歩き出したMr.ブシドーについて、山に登り始める。
小山と言っても結構高く、面積もすごい。
「ほれ」
「あ、うん」
結構斜面に傾きがあって、そこを上がってる途中でMr.ブシドーが手を差し出してきてくれて。
その手に掴まって、息一つ乱さずに登っていくMr.ブシドーに繋いだ手を引かれながら斜面を登る。
「ふう…。…うわぁ…」
辿り着いて一息付いた山の頂上から見えた景色。
真っ暗な中、広い公園の周りには町の灯りや車のヘッドライト、テールライトで煌めいてて。
すごく綺麗。
本当に色とりどりの宝石が煌めいてるみたいに見える。
「いい眺めだろ」
「うんっ。すごく綺麗」
隣で言ってきたMr.ブシドーに返しながら、その眺めに惹き込まれる。
「今日は一晩ここで過ごすぜ」
「え…。…でも…」
軽く見回しても周りには二、三本木は生えてるけど、屋根になるような程枝振りも長くなく。
私から離れて肩からバッグのベルトを下ろしたMr.ブシドーを見ていると、Mr.ブシドーがバッグを開けて、中から何かを取り出した。
暗くてよく見えないけど、バサバサいう音からもしかして寝袋?と思った。
「んっ」
(わ)
Mr.ブシドーがその袋みたいなものをちょっと力を入れて開くと、バサッと音を立てて形になったそれは小型のテントで。
「今日の寝床だ。携帯用だからちぃと狭ぇが、まぁ辛抱しろ」
「………。ええっ」
さっきはてっきりラブホテルで一夜かと思ってたから、ロマンチックさにはやっぱり欠けるけど、ラブホテルよりいくらも雰囲気は上なそのテントがなんだか嬉しくて。

「綺麗ね……」
芝生の上に寝そべって、Mr.ブシドーの脱いで丸めたジャケットを枕に、夜空に瞬く満天の星をMr.ブシドーの隣で眺める。
「…こうしてると、ガキの頃を思い出すぜ…」
「?。子供の頃?」
初めて子供の頃の事を口にしたMr.ブシドーに、自分の両腕を枕にして空を見てるMr.ブシドーに顔を向けた。
「ガキの頃は拾ったテントで暮らして、夜はよくこうしてウソップとナミとの三人で星数えてたよ…」
「え…?」
その言い方に、なんだか話がおかしいような気がして、
「あ、キャンプ?。?」
キャンプの思い出かと思ったけど、『暮らして』って言葉が引っ掛かって。
そしたら、Mr.ブシドーの顔がちょっとこっちに動いた。
「俺達は捨て子だったんだ」
「え…?…」
私を見てるその口から、一瞬信じられない事を聞いた。
「…捨て子…って…」
軽くショックを受けた程のその話に、思わず声が固まる。
目はMr.ブシドーから離せなくて、Mr.ブシドーも私を見てて。
でもふいにその目が顔と一緒に空を見上げて、そのMr.ブシドーの横顔を見る。
「俺は産まれたてで施設の前に捨てられてたらしくてよ。ウソップもナミも似たようなもんで、だから俺達はいつも三人でツルんでた」
「………。ち、っちょっと待って!?w。えっ!?w⊃⊃」
"似たようなもの"って、また言い方がおかしい事に思わず寝返って両肘で体を起こして、Mr.ブシドーを見下ろした。
Mr.ブシドーはそんな私には目を向けないまま、夜空を見ていて。
「…俺達は本当の兄弟じゃねぇ。まぁ兄弟みてぇに育ってはきたがな」
「────」
その言葉が信じられなかった。
Mr.ブシドーとウソップさん、ナミさん、そして話からしてお父さんとお母さんとも血が繋がってない事を知って。
そんな話を静かに、でも平然と話してるMr.ブシドーに、話の信じられなさが信用みを帯びてきた。
「俺は施設の奴らと馴染めねぇで十で施設を出た。その時にウソップとナミもついて来てよ、しばらくは浮浪者生活してたんだ。たまたま運良く見つけたテントで雨風凌いで、飯はレストランやら飯屋の残飯漁ったり、ナミが店屋のもんスってきたりしたのを食って。そのレストランの一つでサンジと見知った」
「────」
「そんな生活してたある日、ナミが熱出してぶっ倒れてよ。病院に行ったが金がねぇから診察すら断られて、それでもウソップと食い下がってた時に親父とお袋に出会った。二人は子供が出来ねぇで、不妊治療にその病院に通ってたがやっぱり無理で、そんな時に俺達を見付けて」
「───……」
「そこで自分達の子供にならねぇかって言われてよ。悪そうな人間でもなかったし、ナミの治療費も出してくれたから、その礼として二人の子供になった」
「…………」
空を見たまま話すMr.ブシドー。
その横顔は静かで冷静で。
どこか乾いたMr.ブシドーの性格。
その性格が、子供の頃のそんな生活で培われたものだって事が、今のMr.ブシドーの話で解った。
「この事を知ってるのはルフィとサンジ、それ以外にゃおめぇだけだ」
「………Mr.ブシドー…」
相変わらず夜空を見てるMr.ブシドー。
そのMr.ブシドーに名前を呟いたら、Mr.ブシドーが少し私に顔を向けた。
「……おめぇにゃ知ってて欲しかった」
「…………」
真っ直ぐ見てくる、Mr.ブシドーの目。
すごく静かで、穏やかで。
でもどこか寂しそうにも見えた。
「……迷惑だったか…?。こんな事聞かされてよ」
「…ううん」
私を見てる顔に、ほんの少し笑みを浮かべて。
その笑みは自嘲しているみたいに見えて。
その顔に、首を振った。
「知れて嬉しい。言ってくれて嬉しい」
両腕を枕にしてるMr.ブシドーの首に腕を巻いて、寝そべるそのMr.ブシドーの肩口に顔をうずめた。
「ありがとう、話してくれて」
知れたから。
Mr.ブシドーの過去。
今まで知らなかったけど、今知れたから。
ちゃんと話してくれたから。
引き締まった頬に口を当てた。
「……ちゃんと言ってくれたお礼と、優勝祝い」
「……ああ」
嬉しさに笑いながら言った私に、Mr.ブシドーも笑って返してきた。
そのMr.ブシドーの首から腕を放して、体をMr.ブシドーの体の脇に寄せる。
初めてMr.ブシドーの腕枕に頭を置いて、星の瞬く夜空を二人で眺めた。

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