─薔薇─

□薔薇4
2ページ/2ページ

(────)
『Mr.ブシドーっ!!?』
「!!」
ビビが生きている事を願いながら、ビビを抱き込んで目を閉じていた時間はどれくれぇだったのか。
頭に聞こえた叫びみてぇな澄んだ声に、開けた目に入ったのは、窓から入る朝日だろう薄明かりに照らされたビビだった。
「あ…」
腕ん中のビビは葉の艶を取り戻し、花びらの色もハリも、元の生き生きとした樹体を取り戻している。
『なにしてるのっ!!?、Mr.ブシドー!!⊃⊃。腕血が出てるじゃないっ!!w』
「………」
心配そうに焦る声で言ってくるビビの声を聞きながら放心する。
そして次第に生きていると安堵して。
「……ビビ………」
『…Mr.ブシドー?』
「……──────」
ビビを抱き締めて、溢れてくる安堵の涙。
『どっどうしたの!!?。なに泣いてるの!!?⊃⊃』
「っ…、良かった…っ」
『え!?⊃⊃』
「生きていて…良かった…っ」
『………Mr.ブシドー……』
泣きながら、しっかりとした手触りに戻った株を胸元に抱き込んだ腕の中で、聞き慣れたビビの声が聞こえる。
もしかすりゃあもう聞く事は出来ねぇと思っていたその声をまた聞く事が出来た事に涙が止まらねぇ。
『なっ泣かないでっ!!?⊃⊃、私ならもう大丈夫だからっ!!?⊃⊃。Mr.ブシドーに泣かれたら私どうしていいか解らないんだからっ!!⊃⊃。ねっ!?⊃⊃』
焦りながらビビが言ってくるが、その勢いのある声が生きている実感を持たせて、余計に泣けてくる。

それからも宥めてくるビビの声を聞き、ようやく気持ちも落ち着いて、腕で目を拭った。
「悪かった…。おめぇはやめろと言ったのによ…」
『……ううん。言っとかなかった私にも非はあるから…。ごめんね?、心配させて』
多少申し訳無さを含んだその声は、それでも優しげで。
「…おう……」
『………。ふふっ』
その言葉に声を返すと、ふいにビビの笑う声がした。
『でもMr.ブシドーの泣き顔初めて見たから焦っちゃったけど、案外悪いものじゃないかも。私の事心配して泣いてくれたなんて、なんか嬉しい』
「ぐ…w」
言ってくる言葉が気持ちとしてそのまま表れているみてぇな声で言ってくるビビの物言いと、それに加えて泣いたところを見られた事への恥が多少湧いて。
『……ねぇ…Mr.ブシドー…』
「ん……なんだよ…w」
『…キスして…?//』
「はあっ!?w」
その恥を感じている所に来たビビの言葉に、思わず声がひっくり返った。
『人間は恋人同士だとキスするんでしょ…?//。だから私もMr.ブシドーとキスしてみたい…//』
「〜〜〜〜www」
花のくせに、どこでそんな事を覚えて来たのか。
さっきまで感じていた恥も吹っ飛んだ程のビビからの要求に思わず声が詰まった。
『でも私は動けないから、私からは出来ないし…//』
「〜〜〜〜〜っっwww」
ビビの言葉にどうするか考える。
女がするならともかく、俺みてぇな野郎がそんな事をするなんざ、画にもなりゃしねぇw。
第一そんな、女がやるような女々しいマネなんざしたくねぇw。
したくねぇが…、こいつはして欲しそうで。
いつも要求なんざしてこねぇ、してきてもかなり控えめにしてくるこいつからの滅多にねぇ頼み。
だから応えてやろうかって気もある…w。
(〜〜〜ええい…!!w。一遍だけだ一遍だけ!!w)
散々葛藤して、これ一遍きりだとてめぇの憤りを抑えつけて、昨日萎れかけて項垂れていた、今はしっかりと茎を伸ばし僅かに咲きかけてきている蕾に口を付けた。

「おめぇ、なんであんな黙り込んでたんだ…w」
ガラにもねぇ事をした恥を紛らわす為に、枝を切ってから始終無言だった理由を訊いてみた。
『あ…、あれは気絶してたの…w』
「はあっ!?、気絶!?」
それに返ってきた答えは俺の頭にゃ全く無かった答えで、思わず声が出ちまった。
植物でも気絶とかするもんなのか、思いも掛けなかったビビの答えに一瞬唖然として、その後無性に笑いが込み上げてきた。
『どうして笑うのよ!!w。植物だって気絶くらいするのよ!?w』
「〜〜〜〜〜っっ!www」
声も出ねぇ程に笑えて、引きつる腹を抱える俺にビビが必死に訴えてくる。
『もうっ!!、いつまで笑ってるの!!?w、Mr.ブシドー!!w。ねぇ聞いてるの!!?w』
「〜〜ああ…聞いてるよ…」
ビビの怒声に取り敢えず強引に笑いを止めて返事を返す。
『まったく…w。笑い事じゃないのよ?…w。本当にそれくらい痛かったんだからw』
「だから悪ぃって。詫びたんだ、もう勘弁しろよ」
困惑と不満の声を出すビビに一遍謝って。
「……ビビ」
『なに…w。……あ…』
株を両腕に収める。
もう俺の中でこいつは無くちゃならねぇ存在になっているのを、今回の事で思い知った。
最初は喋る薄気味悪ぃ植木に関わる事になったと思っていたが、今はこいつを拾って良かったと、心底からそう思う。
『Mr.ブシドーっ⊃⊃、棘がっ⊃⊃』
「いいんだ…」
俺の体を心配してくるビビの声。
腕に食い込む棘の痛みも気にならねぇ程、今この瞬間も、またこいつの声が聞けて安心している。
「……ありがとうな…、生きててくれて」
『…。うん』
相手は植物だが、俺にとっては誰よりも特別な存在。
こいつが居ねぇ生活なんざ、もう考えるのも嫌になる。
さっきまでのこいつを失くす不安に代わって、その声がまた聞けている事、今生きている事に心底安堵しながら、いつもと変わらねぇ生気に満ちた樹体に戻ったビビを抱き締めた。

前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ