─SandLandPrincess─PureLove─携帯彼女─

□SandLandPrincess
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─二章─

「はい、どうぞ」
「………w。すいません…w」
他国のとはいえ、王女直々に差し出された料理が乗った皿を受け取りながら、ゾロは少し困惑していました。
(……いいのかよ…w、護衛の俺が、王女とこんな事してて…w)
手に持った料理から、前に立つ水色の髪の姫君にチラリと目を向け。
(…………w)
ですが立場が上過ぎる相手を前にそれを口に出す事など出来ず、それ以前に、その人の良さげな柔らかい笑顔を浮かべる王女に、胸の温さは消えるどころか更に増して。
「…では…、いただきます…w」
「どうぞ」
花壇の縁に腰を下ろし、前に立つ姫君の視線に少し食べづらさを感じながらも、フォークに刺した肉を口に入れました。
「うわ、うめぇ。!w」
一口口に入れた肉料理は、今までゾロが口にしたどんな料理よりも味が良く。
思わず口に出してしまった地の言葉に気付いて、思わずヤバいと動揺しました。
ゾロは剣士としての腕を買われてヘルメッポ王子の直属の護衛に就く前は、町で荒くれ相手に剣の腕を磨いていた賞金稼ぎで。
態度も言葉遣いも粗野で礼儀も知らず、護衛としての礼儀を叩き込まれた今でも、一人の時やふとした時にその頃の癖が出てしまい、またゾロはそんな堅苦しい態度も言葉遣いも本当ならしたくないので、余計にその言葉遣いが出てしまうのです。
「ならよかった。足りなければ言って?。また取ってくるから」
「いえ…w、これで十分です…w」
今の言葉遣いを咎められる事も無く、にこやかに自分が食べるのを見ている王女に少し気まずさを感じながら、料理を口に運ぶゾロ。
その、初めて王宮料理を食べるらしいゾロを見ながら、ビビ姫は胸の微かな高鳴りと柔らかい感じを感じながら、宮殿の料理を食べさせてあげられてよかったと満足していました。
「……変わった剣ね」
「え……、あ…」
食べている時に聞こえた王女の声に顔を上げると、ビビ姫の目は腰の刀に向いていて。
「あ、はい。自分の国の剣で、刀という独自の剣です」
「…もしかしてイーストブルーにある東の島の辺り?」
「え。あ、ええ、そうです。シモツキ村という田舎の村なんですが…。ご存じなんですか…」
「いいえ、村の名前は知らないけど、その刀という言葉はパパから聞いた事があるから。あの辺には独特の文化があるらしいわね。確か武士道とか…」
「あ、ええ。よくご存じで…」
ゾロは今まで年頃の女の子と話した事はあまりなく、ましてや今話している相手は一国の王女。
下手な事を言って気に障れば、このアラバスタとの友好問題に傷が付く所か、自分の首すら飛びかねないと、肩の力が抜けず。
「じゃあ、あなたの事Mr.ブシドーって呼ぶわ。あなたのあだ名よ」
(Mr.ブシドー…?w)
妙なあだ名をつけられて内心で困惑するゾロですが、ビビ姫は機嫌良さげに笑っているし、言葉を返すのも憚られ。
ただ黙って料理を口に運ぶ事しか出来ません。
「……ごちそうさまでした」
やがてその料理も食べ終わり、王女に見られながらの食事に少し食べた気がしませんでしたが、それでも初めて食べた宮殿料理の味は格別で。
「…あ…」
食べ終わった後のフォークとお皿、それをどうするか、ゾロは迷いました。
「あ、お皿ね。私が持って行くから」
「え…ぁ…、しかし…w⊃⊃」
「いいから。はい」
王女自らに食べた後のお皿を渡すのはかなり躊躇われ、さりとてここで待機していろと主君に命じられていたゾロには自分でお皿を返しに行く事も出来ず。
迷うゾロに、ビビ姫は笑みながらゾロが持っているお皿に手を伸ばし、ゾロも戸惑いがちにその手を離しました。
「……申し訳ありませんw⊃⊃。王女様のお手を煩わせてしまいまして…w⊃」
「気にしないで。どうだった?。王宮の料理はお口に合った?」
「あ…はい…⊃」
「よかった」
ゾロの返事に心底嬉しそうににっこりと笑ったビビ姫の屈託のない笑みは、王女とは思えない程の親しみを感じるもので。
ゾロの胸中には、恐縮の気持ちとその笑みに引き込まれるような不思議な感覚がひしめき合っています。
「……ね」
「は…」
そんな中、ふいに動いたビビ姫の口に、ゾロは少し我に返るような感覚を感じながら、視界に入っていたビビ姫の顔に改めて意識を向けました。
「あなたにお願いがあるの」
「…自分に…ですか…w」
王族の人間が自分なんかに何を…。
そう思って、ゾロは気持ちが畏縮しました。
目の前の王女は、花壇の縁に座るゾロに目線を合わせるように、曲げた膝に手を置き、真正面からゾロの顔を見てきています。
「あのね?」
「…………w」
ビビ姫の艶やかな唇が動き、何が来るのかとゾロは気構えます。
「そんな固い言葉遣いはやめて、もっと崩して話して欲しいの」
「え…」
何を言われるのか気構えていたゾロは、ビビ姫の口から澄んだ声で言われた言葉に、少し茫然としました。
(…どういう事だ…?w)
ゾロは、何を意図して目の前の王女がそんな事を言っているのか、意味がよく解らず、かなり混乱し。
それが顔に無意識に出てしまい、呆然と自分の顔を見ているゾロに、ビビ姫はクスリと微かに喉を鳴らして微笑みました。
「あのね?、私ね、一度でいいから兵士の人達に対等みたいに接して欲しかったの」
ビビ姫は自分の前で堅苦しく接する兵士達に対する考えや胸の内で思っていた事、寂しさ、悲しさを全て青年に話しました。
(………こんな王女もいるのか…)
そしてそれを聞いたゾロは、他の国の王女とは違うビビ姫の考えに、かなりの驚きを感じていました。
ゾロは護衛剣士ですので、ヘルメッポ王子について各地の国にも行く事があり、そこで見てきた王女達は皆自分の立場に甘んじ、敬われて当然といった態度で武官や兵士にも接していたので、まさかビビ姫のような考えを持つ王女がいるとは、夢にも思っていませんでした。
「あなたはこの宮殿の護衛兵じゃないし、私もあなたの主君じゃない。だから今の話も出来たんだし、お願い、あなたは堅苦しくならないでもっと肩の力を抜いていて。ね?。自分の呼び方も自分なんて言い方しないで俺って、さっきマツゲくんに話してた時みたいな、もっと砕けた態度と言葉遣いで接して欲しいの」
「…ですが…w」
理由を聞いて、王女が言った頼みの意図は解ったのですが、だからと言って"はいそうですか"と気軽に返事は出来ません。
他国の王女、そしてその王女からの頼みでも、王女と気楽に話すなど、王族に仕える身分、そしてただでさえ平民出のゾロにはとんでもなく恐れ多い事です。
ですので、納得はしたのですが、返事はしかねます。
「お願い。絶対に他の人には言わない。このお願いも単身でいるあなたにだから出来るお願いなの」
「…………」
胸の前で指を組んで頼んでくるビビ姫の表情はとても悲しそうで。
王族には王族の孤独と言うのがあるのかと、ゾロはその悲しげな表情で懇願してきたビビ姫の顔を正面から見つめました。
「…………本当に…いいんですか…?」
「!。うんっ」
確認したゾロにビビ姫がぱあっと眉尻は下げたままでも笑顔に表情を変えて頷き、ようやくゾロは肩から力を抜きました。
「はは、正直苦手なんですよ、敬語とかって固ぇ物言いは」
「!」
揃えていた膝もだらしなく開け、最低限の敬語は残しながらもかなり砕けた言葉遣いで喋ったゾロに、ビビ姫は自分の前で地位の低い者が態度を崩してくれた事に、普通に接してくれてると嬉しくなって。
「この礼服とか、護衛の服も肩は凝るし首も詰まるし、本当は脱ぎてぇんですよ。規則なんで仕方ねぇから着てますがね」
「……うふふっ」
笑いながら詰め襟に指を掛けて言ってくるゾロの軽い愚痴に、ビビ姫は嬉しさと、あまりドレスなんて動きにくい服を着たくない自分と同じ事を思っているんだと、目の前の護衛剣士に対して可笑しさがこみ上げてきます。
「ねぇ、あなたの故郷の国の話、もっと聞かせて?。私あまりこのアラバスタの国から外に出た事がないから、他の国の事が知りたいの」
「ええ、構いませんよ。俺の故郷は―――」
ゾロはビビ姫に故郷の風景、風土、そして春夏秋冬の風物詩をビビ姫に聞かせてあげました。
ビビ姫は、どうやら自分の国では当たり前に生えている桜や、他の国でも当たり前に降る雪すら知らず、それを説明するゾロの言葉に目を輝かせて食いついてきます。
今まで女の子と、そして一国の王女ともこんなに話した事の無かったゾロは、その自分の話を満面の笑みで聞き、質問してくるビビ姫の素直さと親しさ、そしてその端麗ながらも愛らしい笑顔に、益々胸の暖かみが増し、話も弾みます。
「ビビ様!!」
「!。イガラム!」
(っ!。やべぇっ!!w)
ビビ姫を呼んだ男の声にビビ姫は少し驚きながらも、手に持つお皿をフォークと共に花壇の中に捨て隠し、ゾロは慌てて腰掛けていた花壇から立ち上がって姿勢を整えました。
「ビビ様!、こんな所に居られたのですか!。いつの間にやら姿が見えず、みなで探しておったのですよ!?⊃⊃」
「え、あっ、ごめんねイガラムっ。皆さんもごめんなさいっ⊃⊃。せっかく私の誕生日をお祝いしに来てくださったのに⊃⊃」
ビビ様はイガラムの後ろにいる客人達に頭を下げてお詫びし、つい時間が経っている事を忘れていた事をしまったと心の中で思いました。
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