原作サイド─数年後─

□子育て
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「…………」
国民達から出産祝いの一つとして贈られた双子用のベッドの上で、二人揃って安らいだ寝息を立てるゾアとビナ。
窓から入る薄いカーテン越しの陽の光に照らされた、ぷっくりと膨らみを持った薄桃色の頬は見るからに柔らかそうで。
(…………)
手前に寝るビナのその頬に、人差し指の先を持って行く。
起こさねぇように静かに、壊さねぇように軽く、その頬に指先を着けてみる。
(…マジで柔らけぇな…)
なんか安心する柔らかさ。
いつも面倒みる時にどこかしらに触りはするが。
赤ん坊ってのはマジで柔らけぇ。
ビビを腕ん中に抱きながら寝る時に似た、『安心』を感じる柔らかさ。
(…………)
ちぃとだけ押してみる。
押した分だけ抵抗も無く沈む頬。
指を引いたらそれに付いて、焼きたてのパンみてぇに戻ってくる。
もう一遍押してみる。
柔らかくへこんで。
指を引いて。
柔らかく戻ってくる。
「うはは…」
可笑しいのと、柔らけぇ気分に笑える。
なんでこんなに可愛いのかと思う。
こんな感情を感じる感覚がてめぇにあったのかと思えるくれぇ。
安心する。
泣き喚かれた時ゃあ気も焦って疲れはするが、この柔らかさと寝顔を見てりゃ、その疲れも消え去っちまう。
(…………)
なんか眠たくなってくる柔らかさ。
ビビが戻ってくるまでもうちぃとだが…。
…たまにゃあこいつらと寝てぇと思う…。

「…?。Mr.ブシドー?」
部屋でゾアとビナを見てくれてるMr.ブシドーに交代しようとドアを開けて。
こっちに背中を向けて、ベビーベッドに凭れ掛かるみたいに座り込んでるMr.ブシドーが見えた。
「…?。…Mr.ブシドー…?。………」
覗き込んだMr.ブシドーは、ベッドの柵の僅かな縁にかろうじて頭を乗せてるみたいにして目を瞑ってて。
(眠ってる……)
片腕をベビーベッドの柵に引っかけるみたいに、なんだかベビーベッドを覗いててそのまま眠り込んだみたいに崩れ込んで眠ってる。
(………ふふっ…)
その静かな寝息に、数年前の彼との違いから、微笑ましさが湧いた。
このアラバスタに留まるようになってから、Mr.ブシドーはあまりいびきをかいて眠っている所を見なくなった。
それだけ大人になったんだろうか、たまには軽くかいてたけど、それもごくたまにしか聞かなかった。
そしてゾアとビナが産まれてからは、Mr.ブシドーのいびきを聞いた事がなかった。
あの、人の事にはあまり干渉しないMr.ブシドーが、ゾアとビナの育児には積極的に行動して、手伝ってくれて。
夜も時計塔に戻る事なく、宮殿に海賊の自分が居座る事への蟠りを持ちながらも、この宮殿で私と一緒に育児をしてくれている。
その日からこの部屋でMr.ブシドーは過ごしてるけど、眠っている時に軽いいびきすら聞いた事はなかった。
それはまるで二人の眠りを妨げないように。
二人の成長に大切な"眠り"を護ってるみたいに。
静かに静かに眠ってる。
それがMr.ブシドーも父親として、彼が無意識にでも成長してるみたいに思えていた。
(…………)
肩に掛けていたショールを、ベッドの柵の縁に乗せて眠ってるMr.ブシドーの背中に掛けて。
「…おやすみなさい…お父さん…」
ゾアとそっくりな寝顔をしているその頬に残る、左目の上から伸びる傷跡に、起こさないように静かにキスを当てた。

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