原作サイド─四年後─

□花畑
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「その袋に水を入れる袋が入ってるから出してくれる?」
「ん…」
ビビの片腕にかなりの花が束になった頃、花を切るビビが手を止めて。
布袋の中を見ると、なめし革で作られている水袋が入っていた。
「これか」
「ええ。この暑さだから帰る道中で萎れちゃうの。だからそれに水を入れて花を持って帰るのよ。、」
水袋を出して訊くと、答えながら受け取ろうと手を差し出してきたビビ。
その手に水袋を渡さずに、オアシスに足を向ける。
「この水入れりゃいいんだろ」
「ええ、そう。ありがとう」
片手が花の束で塞がっているビビの代わりに袋にオアシスの水を掬い入れる。
「これくらいでいいか」
「ええ」
多すぎず少なすぎずの水の量を入れてビビに見せると、ビビが頷きながら答えた。
「今年は去年より沢山花が採れたわ」
ビビが嬉しげに目を細めながら、俺が口を開いている水袋に花の束を差し入れる。
「ありがとう、持っててくれて。もう私が持つわ」
「構わねぇ。お前はこの布袋持ってろ」
「いいの、持ちたいの」
この花畑がビビが作っているものだと聞いた時に思った、なぜこんな所で花を育てているのかの疑問の考慮の無さに、その詫びのつもりで持つ事にした花だったが、笑みながら自分が持つと言ってくるビビのその心中を今度は読めて。
それを汲んで、差し出していた布袋を引いて水袋を渡す。
「今日はごめんね、日中の砂漠で花摘みに付き合わせて」
受け取った、溢れんばかりに花が入ったその水袋を、来しなの布袋同様大事そうに胸元に抱きながらビビが詫びてきた。
「でも、あなたにはこの場所を教えてもいいかなって思えたの」
『ここはカルーにも内緒なくらいの場所なのよ?』
どこか楽しげに柔らかく笑いながら言ったビビ。
そのビビの腕の中に抱かれる花の束と、まだ蕾や来年の零れ種の為に残した花々が、さわりと吹いた風に穏やかに揺れた。
弔いの花を育てる花畑。
だがそんな暗ぇイメージが似合わねぇ、暖色の色を湛える花々でいつかこのオアシスが満たされる光景。
それを思う。
頭に浮かぶその光景、その日がいつ来るかを思いながら……。

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